学生時代のことだから、もう30数年も昔になる。月刊誌に連載されている池波正太郎の小説「鬼平犯科帳」を楽しみにしていた。
江戸幕府の職名のひとつに火付盗賊改(ひつけとうぞくあらため)があった。江戸市中の凶悪犯を専門に取り締まる役だ。人をあやめてでも大金をつかむ強盗集団を、「鬼の平蔵」こと火付盗賊改の長谷川平蔵が成敗する痛快な物語である。テレビでも鬼平の中村吉右衛門がはまり役だった。
この火付盗賊改は、現代でいうと東京地検特捜部であろうか。ライブドアの堀江貴文前社長に続いて、村上ファンドの村上世彰代表を逮捕した。
昨春に就任した大鶴基成・東京地検特捜部長は「額に汗して働く人、リストラされ働けない人、違反をすればもうかるとわかっていても法律を順守している企業の人たちが憤慨するような事案を、困難を排して摘発したい」と語っている。
なかなかかっこいい。まるで「正義の月光仮面」みたいだ。今回、堀江、村上両氏を摘発した検察の評価は高いだろう。ただ、あまりかっこいいものは疑ってみる必要がある。検察も官僚組織である。自らの権威を維持するために腐心している。草の根の庶民の利害にかなう「正義」より、「国家の正義」になりがちなことを忘れてはなるまい。
ところで、逮捕前の記者会見でとうとうとまくし立てた村上さん。「プロ中のプロ」と何度も言ったのが印象的だった。ただ、あまりに冗舌。しゃべりすぎればボロが出る。ニッポン放送株のインサイダー取引を「たまたま偶発的」と弁明していたが、どうやら村上さんの方から呼び掛けたようである。これで本当の「プロ中のプロ」なのかどうか。
「むちゃくちゃにもうけたから嫌われた」と村上さん。そうではない。口で言うこととやることが違う「もうけ方」が嫌われたのである。お間違いのないように。
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