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株式会社 廣文館
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コラム・ブックレビュー
広島在住のジャーナリストによる “書評”コーナー!
「書物の魅力」を 月1回のペースでお届けします。

『自分の木』の下で / 大江健三郎 著
(朝日新聞社・1,200円)
 大江健三郎の本を最初に手にしたのは、今から40年前の中学生の時だった。大学生の兄が大江に傾倒していて、兄の書棚に彼の本が並んでいた。その中の「死者の奢り」と「飼育」を読んだ。はっきりいって、憂うつな気分になった。それ以来、大江の作品は「肌に合わない」と思い込んでしまったようだ。例えば「万延元年のフットボール」も買ってはみたが、積読になっていた。

 それが、「『自分の木』の下で」を急に読もうと思い立った。というのは、先日、大江が久米宏キャスターの「ニュースステーション」に出演し、子どもたちへとつとつと語りかけていたからだ。
 今、日本の子どもたちの状況を見ていると、何か言いたいと思う人は多いだろう。だが、いざとなれば何を語りかければいいのか、たじろいでしまう。「なぜ子どもは学校に行かねばならないのか」「どんな人になりたかったか?」。子どもたちの文字通り素朴な疑問に、ノーベル賞作家の大江は全力投球で答えている。ニュースステーションで「なぜ、今、子どもたちに真正面から向かおうとしているのか」と不思議に思った心のつかえが、この本を読んで氷解した。

人間には、それぞれ「自分の木」がある。その木の下を、年をとった自分が通りかかると、子どもの自分が「どうして生きてきたのですか?」と問いかける。それに答えて「長い長い話をするかわりに、私は小説を書いてきたのじゃないか」と考える。

 子どもにとって取り返しがつかないことは、「殺人と、自殺」だという。「この暴力を子どもたちにふるわせない、子ども自身もそれをふるわない、と決意することが人間の原則」と大江は力を込める。そして、もう取り返しがつかないことをしなければならない、と思いつめたら、その時「ある時間、待ってみる力」をふるい起こすように―と呼び掛ける。大江のメッセージがずんと響いてくる。
【ジャーナリスト・枡田勲/2002.04.26 】


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