先月、朝日新聞に「囲碁と将棋を比べてみれば」という記事が出ていた。「お金をつぎ込むのは?」、「ギャンブル性は?」、「女性にやさしいのは?」の三つの疑問を専門家に投げかけて、ゲームの違いを浮かび上がらせている。
結論から言うと、お金をつぎ込むのはは囲碁、ギャンブル性は同じくらい、女性にやさしいのは囲碁、ということになろうか。私は、囲碁、将棋とも好きで、日曜日、NHK教育の両方を見るのが楽しみだ。将棋の終盤の迫力にしびれ、囲碁の序盤の想像力に感心している。
「お金をつぎ込むには?」の質問には、この本の編者、尾本惠一さんが答えている。囲碁のルーツは中国とされ、8世紀の奈良時代の文物を納めた正倉院の宝物の中には、立派な碁盤があるが、将棋の盤や駒はない。将棋のルーツはナゾだが、平安時代以来、日本で独自の発達をとげた―と尾本さんは書いている。つまり、囲碁や麻雀は日本で改良されたかもしれないが、外来文化としての原型が保たれている。その点、将棋は日本の伝統的な文化にふさわしい、という。
この本は、人類学者で将棋ファンの尾本さんが「将棋学」設立の手引書としてまとめたものである。数学者をはじめ、考古学、歴史の専門家、羽生善治ら数人の棋士も寄稿している。「将棋とチェスの比較論」(旦代晃一さん)、「賭けと日本人」(谷岡一郎さん)などの考察はなかなか興味深い。
尾本さんは、将棋は多方面からの学際的研究に値する。価値の多様化や規制緩和が叫ばれる今日、学問に遊び心を取り入れるためにも将棋学が提唱されてよい。バランスの取れた知能を発達させ、日本文化の良い面である礼儀やフェアプレー精神が自然に身につく、と強調する。全く同感である。
もう一つ言えば、とにかく面白い知的ゲームである。将棋を知れば世界が広がる、とも言えようか。テレビゲームより、囲碁、将棋をお勧めしたい。
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