自分ながら「天の邪鬼(あまのじゃく)だなあ」とあきれてしまうのだが、ベストセラーには「うれしげに飛びつきたくない」と思ってしまう。横山秀夫さんの小説「半落ち」が直木賞候補にもなり、ミステリー業界で話題になっているのは知っていたが、しばらく見向きもしなかった。
ところが、友人が「面白いよ」と貸してくれたのが「半落ち」。読み出したら、もう止まらない。一気に読んでしまった。妻を殺して自首してきた警察官の、自白に残された2日間の空白のナゾを解く物語だ。まず、テンポがいい。人物描写が的確。とにかく「読ませる」のだ。ミステリーなので最後の場面は説明しないが、思わず目頭が熱くなった。
直木賞選考会で「重大な欠陥」が指摘され、欠陥作か傑作か、今、ホットな論争が続いている。私は、最近にない傑作だと思う。的外れの指摘をする直木賞なんかは、ほっとけばいい。読者が評価している、と言いたい。もっとも、新聞の記事に「異例の論争こそが、傑作の証明?」とあった。その通りである。
横山さんの作品はいわゆる「警察小説」である。「第三の時効」も刑事の人物造形の巧みさに引き込まれる。6つの作品からなるが、男たちの心のぶつかり合いが、一貫して描かれている。捜査一課強行犯一係、通称「一斑」の朽木班長、「二班」の楠見班長、「三班」の村瀬班長。この個性豊かな三人の絡み合いが、何とも面白い。
「第三の時効」も、「半落ち」に劣らず一気に読んでしまった。老眼鏡が外せなくなって、この「一気読み」は最近ほとんどない、というか、できないのである。根気が持たないし、体力もない。それだけで、横山さんの小説がどんなものか分かるだろう。
ベストセラーになるには、それだけのものがある。ベストセラーとはいわば「旬」のことか。旬を逃してはならない、と天の邪鬼は考えを改めている。
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