「痛みに耐えてよく頑張った。感動した。おめでとう」。2001年夏場所、小泉純一郎首相はこう絶叫しながら、横綱貴乃花に内閣総理大臣賞のカップを手渡した。喜怒哀楽を素直に表現するスタイル。小泉首相がメディア向きの政治家であることを、よく表している場面だった。
テレビのコメントは「短く、歯切れがよく、分かりやすい」ことが求められる。その条件を見事なまでにこなしているのが小泉首相だ。政権の座に付いて2年を超えた。今年初め、田中真紀子外相を更迭したあと、内閣支持率はがくんと下がったが、最近はまた持ち直して50%前後の高い支持率を保つ。その大きな理由の一つは、巧みなメディア戦略である。その「メディア政治」の舞台裏を、この本は解き明かしている。
著者は初代メディア宰相を細川護煕氏とする。首相就任の際、それまで着席していた記者会見を、立ったままで行うようにした。会見場の背景を薄いグレーから青に変えた。演説原稿の文字を映し出して、聴衆やカメラに語りかけるポーズがとれるプロンプターという機器を使った。メディアに気を配った首相だった。
その細川政権が8カ月あまりで崩壊。「極端な言い方をすれば、細川氏はメディアを通じて国民からいいイメージを持たれた人気者だったからこそ限界があった」と、メディア宰相のパラドックス論を展開する。当然、小泉首相も同じように「パラドックス」を持つ。官僚に乗って政策を遂行するという旧来の自民党政治的な手法をとれば、国民からの支持が急速に低下し、逆にそうしなければ、自らが持ちうる政策遂行の手足は限られてくるということである―と鋭く喝破する。
小泉首相は2年たっても相変わらず「改革なくして成長なし」といったスローガンを言い続けている。ところが経済情勢は一向によくならない。さすがに国民も小泉首相の言葉に中身がないことを、気づいているだろう。それでも支持率が維持できているのは、外交で点を稼いだこともあるが、国民に毎日語りかける首相が、他の政治家よりはまだいいと思われているからではないか。しかし、賞味期限はある。メディア戦略に政策遂行の裏付けが伴わなければ、国民に愛想をつかされるだろう。
小泉政権がどこまで続くかわからないが、終わった後に何も残っていなかったでは、あまりにも悲しい。
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