株式会社 廣文館
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広島在住のジャーナリストによる “書評”コーナー!
「書物の魅力」を 月1回のペースでお届けします。 |
岡本太郎 神秘
(岡本太郎撮影・文、内藤正敏プリント、二玄社・2,600円) |
なぜか、岡本太郎(1911―96年)がブームという。岡本太郎といえば、大阪万博の「太陽の塔」で知られる。エネルギーが画面にあふれるような抽象画もご存知だろう。ちょっと「いったような」目をして、「芸術は爆発だ!」と叫ぶコマーシャルを思い出す人もいるだろう。
はっきりいってあまり好きになれない絵である。ところが、写真集「岡本太郎 神秘」を見て、ブームになるのも納得した。日本文化をとらえる岡本の鋭い洞察眼にうなってしまった。
写真に付けられた彼の文章にも感服した。例えば、青森の農家の庭先、腰の曲がったおばあさんと小さい子どもがたたずむモノクロ写真。深い陰影に思わず引き込まれる。「現代人が、自動車やテレビなしには生活できないように、かつては神秘の世界の重みをかみしめなければ生きられなかった。神秘には現実的な、また非現実的な王国がある」とキャプションがある。
沖縄の石垣島の「山羊焼き」の一枚。「人間が動物を食い、動物が人間を食った時代。あの暗い、太古の血の交歓。食うことも食われることも、生きる祭儀だった。残酷で、
燃えるような、宇宙的な情熱が迫ってくる」
この写真集は彼が1950、60年代に日本全国を歩いて撮影したものである。なにかに憑かれたように撮りまくったのは、青春時代をパリで過ごした彼が、足元の日本を再発見する試みだった、という。ものを見る力は、パリ大学で民族学(文化人類学)を学んだことが基礎になっている。その民族学のレベルの高さは、1958年に出版した「日本再発見―芸術風土記」に現れている。
付け加えておきたいのは、この写真集は写真家で民俗学者の内藤正敏がプリントを作っていることだ。岡本の撮った写真を、内藤が焼く。トリミングや焼き方によって写真は大きく変わる。鬼才二人の合作で出来上がった傑作写真集と言える。
東京・青山の岡本太郎記念館では写真展「岡本太郎 神秘」が4月5日まで開かれている。 |
【ジャーナリスト・枡田勲/2004.03.22 】 |
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