個人の仕事の実績を評価して、賃金や人事に反映させる。それによって、仕事への意欲がわき、生産性が上がる。これが「成果主義」のうたい文句である。
厚生労働省の2003年調査では、従業員1000人以上の企業で78・3%が、この成果主義を採用している。だが、「うまくいっている」企業は、わずか10・6%にすぎない、という数字が出ている。
この本は、サブタイトルにあるように、成果主義の失敗例を余すところなく暴露している。コンサルタント会社のたわごとに乗せられて、アメリカの形式だけ真似をし、自国の伝統や文化をまったく無視した制度が、売上高1兆円の巨大企業をボロボロにしてしまった。有能な社員から富士通をどんどん去っていったという。著者は富士通の人事部に在籍し、2004年に退職するまで、つぶさにその惨状を見てきた。
「無能なトップとそれに群がった無能な管理職が、この制度を使いこなせず、社員の士気は低下。社内には、不満と嫉妬が渦巻き、自殺者まで出る惨状」と記す。成果主義の中核は、「目標管理制度」だ。半期ごとに目標をたて、従業員はそれに向かって努力し、成果に応じて賞与を受け取るというタイプの成果主義である。しかし、半期ごとに数値目標を立てられる幸運な職種は少ない。いくら立派な目標を立てても達成できないと評価されないから、目先の目標になり、意欲が増すどころか挑戦意欲は減少するばかり。さらに、成果主義で従業員が一番不満を持っていたことは、管理職自身の評価が不透明だったことである。
この成果主義が、人件費抑制という短期的視野から導入された側面もある。人間はお金だけで働く気にはなれないものだ。「社員はロボットではない。人の気持ちを無視した制度に、未来はない。この点に気づかない会社には、今後も将来はないだろう」と著者はいう。けっして他人事ではない。同じような思いをしている人は多いのではないか。
この本を読んだら、富士通の製品は間違っても買うまいと思ってしまう。
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