♪涙じゃないのよ 浮気な雨に
こんな歌詞から始まる「カスバの女」をご存じだろうか。昭和30年にできた曲で、小さいころ歌手の「沢たまき」がハスキーな声で歌っていたのが印象に残っている。
その最後のところに、
明日はチェニスか モロッコか
泣いて手をふる うしろ影
外人部隊の 白い服
とある。イラク武装勢力に拘束されて、亡くなったとみられる斉藤昭彦さん(44)が、昨年12月までフランス外国人部隊に所属していた、ということで外国人部隊が脚光を浴びた。そのニュースを聞いて浮かんできたのが、カスバの女の外人部隊だった。
「父から『外人部隊』の息子へ」が目に止まったのも、斉藤さんの事件があったからである。
ある日、突然のことである。パリから、地方の一消防士である父に届いた手紙。「お父さん、フランス部隊に入隊します。申し訳ありません。どうしても言えませんでした」
同じような世代の息子を持つ身として、こんな手紙をもらったら、どんなに驚くだろう。愛媛大学を卒業すると思っていた22歳の若者が、大学に退学届けを出して、フランスに旅立っていた。なぜ「こんなことに」と困惑する父親、悲しみに暮れる母親。
規定の社会に出ることを拒絶し、予告もなしに日本を飛び出した息子。人生も終盤に差し掛かった父。手紙を通じて手探りの対話が始まる。
「小市民的すぎる」と批判する息子。「刹那主義」と切り返す父。親子が交わした十通の手紙は、切っても切れない絆を浮き彫りにする。がんこな父親の凍り付いたこころが、手紙の対話によって少しずつ解けていく。その過程が生き生きと描かれている。
この本を読みながら、九州にいる大学4年生の息子を思った。息子が何を考えて、どんな生活をしているのか、本当に分かっているのだろうか、と。頑固な父に反発した自分の若かったころを重ね合わせて、「家族とは」「父と息子とは」とあらためて考えさせられた。
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