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株式会社 廣文館
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コラム・ブックレビュー
広島在住のジャーナリストによる “書評”コーナー!
「書物の魅力」を 月1回のペースでお届けします。

夕凪の街 桜の国
(こうの史代著、双葉社・800円)

 最近、なかなか本が読めない。団塊世代、残り少ない会社勤めの「忙しさ」を言い訳にしている。老眼鏡をかけると目が疲れることもある。まして、重いテーマとなると、とても触手が動かない。

 それが、ふとしたことで「夕凪の街 桜の国」を手にした。原爆をテーマにした連作コミックである。テーマがテーマだけにいささか構えて読み始めたが、気がつけば読み終えていたという感じである。柔らかなタッチで描かれ、悲惨な場面はほとんどないのに、胸が熱くなった。これはいったい何なのだろうか。

 二部構成で「夕凪の街」は、原爆投下から10年たった広島が舞台。原爆で父と姉、妹を失った主人公皆実の日常を淡々と描く。「生き延びたこと」への罪悪感。白血病に襲われ弱る身体。「10年経ったけど、原爆を落とした人はわたしを見て『やった!またひとり殺せた』とちゃんと思うてくれとる?」。皆実の最期の言葉が心を打つ。

 後半の「桜の国」は、次の世代に移る。こちらも怒りや悲しみを抑えた筆致で、原爆の悲惨さを淡々と描く。ヒロシマをテーマにした本で、原爆という圧倒的な暴力を、こんなにもほのぼのとしながら、ちゃんと伝えることができるのか、と「目からウロコ」である。

 週刊誌に発表されてから、すぐ評判を呼び、「2チャンネル」の掲示板はこの作品の話題で沸騰したという。ネットといえば若い世代である。この作品に共感を覚える若者がたくさんいることに、ほっとする。文化庁メディア芸術祭マンガ大賞、手塚治虫文化賞新生賞を受賞したのも嬉しい。

 こうのさんは、広島市西区の出身。先日、書店のイベントで帰郷したこうのさんとお会いした。物静かで地味な人だが、いかにもしなやかな感性あふれる人に見えた。「桜の国」の続きを読みたいと思う。

【ジャーナリスト・枡田勲/2005.09.07】


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