10数年前から毎年、忙しい合間を縫って1泊2日の人間ドックに入る習わしになっている。検査はともかく、早い夕食(午後5時)後にたっぷりと自分の時間がとれるのを楽しみしている。今年は2月、分厚い本を持ってドック入りした。
著者は月刊現代にエッセーを連載していた。私もその読者の一人だった。連載中の一昨年12月4日、本田さんは71歳で亡くなった。その連載エッセーをまとめたのが本書「我、拗ね者として生涯を閉ず」である。
何しろ582ページもある。読み出したら止まらなかったが、朝が白み始めてもまだ四分の一ほど残った。重さ1キロ。寝転がって読むには重すぎて、首や肩が凝ってしまった。だが、それ以上に小気味のいい文章に胸を打たれた。
本田さんは、読売新聞の社会部エースとして名を馳せ、フリーのノンフィクション作家として活躍した。吉展ちゃん誘拐事件を描いた「誘拐」、金嬉老事件に迫った「私戦」、「不当逮捕」「村が消えた」「戦後―美空ひばりとその時代」「私の中の朝鮮人」などなど。「社会部記者」を自認したジャーナリストらしく、まさに作品はその時代を切り取っている。
そして、壮絶な闘病生活。両足切断、右目失明、肝がん、大腸がん…。病魔と闘いながら、啖呵を切り、かみつき、現代人の心の荒廃を批判し続けた。救われるのは、死を自覚しながら「悲壮感というやつは嫌い」と暗さがないことである。
絶筆となったエッセーの中に「自分に課した禁止事項がある。それは、欲を持つな、ということであった。欲の第一に挙げられるのが、金銭欲であろう。それに次ぐのが出世欲ということになろうか。それと背中合わせに名誉欲というものがある。これらの欲を持つとき、人間はおかしくなる。いっそそういうものを断ってしまえば、怖いものなしになるのではないか」とある。
この本は「拗ね者」の遺言である。とにかく、多くの人に読んでほしいと思う。読者が心を揺さぶられることを保証する。
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