赤いサクランボの実から始まる。アジサイ、ムクゲ、ヒガンバナ、コスモス、紅葉、 ツバキ、フキノトウ、スイセン、サクラ…。他にもホタル、カブトムシ、セミの幼虫などもある。
尾道で自然教室「草樹庵」を開き、魔女先生と呼ばれる著者が、1年半かけて描いた「はがき絵」は、季節の移ろいを鮮やかに切り取っている。尾道市の病院から、骨髄移植の治療のため広島市の病院に転院した松葉恭平君。尾道の院内学級の担任だった魔女先生が、その恭平君に130通のはがき絵を送り続けた。そのすべてを収めたのがこの本である。
隔離された無菌室の病室は、一輪の花も持ち込めない。そこで、魔女先生ははがき絵を思いついた。絵のそばに、恭平君を励ます言葉も添えた。このはがき絵はどんなに闘病の支えになったことか。
1995年12月2日、トウガラシの絵が最後になる。2日後の4日、恭平君は小児がんで逝った。まだ9歳だった。それから11年、恭平君の母、孝子さんこのはがき絵を仏壇に供えて、息子と語り合う毎日。はがきには線香の匂いが染みついていた。それを手にして、魔女先生は恭平君の「生きた証し」として残そうと思い立った。
読んでいる内にこみあげてきた。実物のはがき絵を、そのまま収めたものである。込められた思い、飾り気のない言葉がかえって心を打つ。孝子さんは、「恭平が私のところに帰ってきたような気がした」と語った。息子の生きた証しを何かに残したい、と何度も書きかけては挫折していた、と孝子さんはいう。それだけに、この本は恭平君にも孝子さんにも嬉しいプレゼントになった。
このタイトルは、尾道でいつも空を見上げながらはがき絵を描いていたことから名付けたという。私は涙がこぼれないように、空を見上げた。 |