サブタイトルに「いま、何か一つだけ、字を書くとしたら?」とある。そう問いかけられたら、考え込んでしまう。
本書は「週刊金曜日」に連載された「一字一会」を中心に構成。百人が選んだ究極の「一字」である。その百人とは、作家、詩人、漫画家、俳優、歌手…とあらゆるジャンルの人が「一字」とその理由を語っている。
辛口評論家の佐高信さんは「野」。「野人は私は好きである。在野もいい」という。俳人の金子兜太さんは「土はいのちの根源」で「土」。写真家の荒木経惟さんは「女」。俳優の小沢昭一さんは「楽」。作家の安部譲二さんは「怒」。それぞれ納得する。
この本に「一字」が収められているが、エッセイストで作家の米原万里さんと社会学者の鶴見和子さんの2人は、今年亡くなっている。
米原さんの一字は「坂」。「登るときには希望があって、降りるときには…勇気がいる。まっすぐで平坦な道は退屈だ。わたしは起伏にとんだ道が好き」と記している。
前々回のこの欄で米原さんの「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」を取り上げた。その中でも「坂」を紹介している。卵巣がんと壮絶な闘病の末、5月に56歳で逝った米原さんらしい遺言の一字である。
8月に88歳で亡くなった鶴見さんの一字は「命」。「すべての生きものの命を奪うのが戦争である。とりわけ核戦争は、命の根源である地球を破壊する」と書き残している。
日本漢字能力検定協会の2006年「今年の漢字」が「命」だった。これも何かの因縁だろう。 |