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コラム・ブックレビュー
広島在住のジャーナリストによる “書評”コーナー!
「書物の魅力」を 月1回のペースでお届けします。

「フランスよ、どこへ行く」
山口昌子著(産経新聞社・1500円+税)

 藤村信さんの「新しいヨーロッパ 古いアメリカ」を紹介したならこの山口昌子さんの「フランスよ、どこへ行く」にふれないわけにはいかないだろう。同じフランス滞在が長いジャーナリストとして二人のエッセイ集をあわせ読むのは実に興味深い。藤村さんは1999年〜2003年のコラム、本書は山口さんが01年〜06年の間に産経新聞パリ支局長として同紙に掲載した大型コラム「緯度経度」「パリの屋根の下」が中心である。

両書はイラク戦争など米国に対するスタンスの取り方をはじめ、ほとんどすべての面で対照的だ。藤村さんが鳥瞰的とすると、山口さんは地を這うような虫瞰である。個別、話題的でいかにも新聞記者的なエッセイが多い。藤村さんは自ら名づけたようにヨーロッパから世界、とくに米国を見る「ヨーロッパ展望台」を自分の役割とした。この点、山口さんはあくまでフランスにこだわる。二つの本は優劣を言う前に性格が違う。

日本人はフランスというとすぐフランス革命、「自由、平等、博愛」が思い浮かび、“左翼”“進歩的”とつながりやすい。しかし、フランスは国家としては極めつけの中央集権国家であり、国民は保守的と思えるほどに現実的であり、リアリストである。本書はそんなフランスの「国の形」が一つ、ひとつのコラムを通じてよく見える。いかにも産経新聞的に「愛国」「国家」「国歌」といった言葉が全編にあふれているが、それがまたフランスの現実だと言えば言えないこともないだろう。

個別、具体的であるだけに読んでいて「ああそうなのか」「いまフランスはそうなっているのか」と教えられることは多い。とりわけ著者が力を入れている移民問題は何度も取り上げられ深刻さがよく分かる。

フランス大統領選挙は結局、イラク参戦を拒否したシラク、ドビルパン前政権に批判的な著者が買う(?)サルコジ氏が社会党のロワイヤル氏を破って当選した。新外相にもイラク参戦派だったクシュネル氏が就任した。政治も経済も「グローバリズム」の市場経済が席巻する世界で、曲がりなりにも社会保障、福祉に軸足を置いた「社会モデル」を国の柱にしていたフランス。新大統領の下、本書のタイトルが言うように「フランスよ、どこへ行く」である。

それにしても年齢は20歳以上と親子ほどにも違いながら、共にジャーナリストとしての半生をこの国に寄り添うようにして過ごした。他方は1924年生まれ、太平洋戦争を経験した大先輩記者。もう一人は1969〜70年にフランス政府留学生としてスタートを切った戦後派エリート記者。同じフランスを舞台にしても見る目はこうも違う。なぜか。所属する新聞社の違い、世代の違いといろいろあっても最大の理由は、「戦争の記憶」がどれだけあるかだと考えるのは、これまた思い込みの一つだろうか。

【ジャーナリスト・小野増平/2007.05.23】


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