神奈川県・厚木から米海軍の艦載機移転を迫られている岩国問題はどう決着するのか。移転を受け入れない限り、市庁舎建設の補助金すら認めないといった姑息な国の圧力は強まるばかり。岩国市民の間にも議会を先頭に“柔軟・現実派”が増えている。
移転問題の引き金となった根っこの米軍再編について知りたくて数冊を求めた。一番、簡潔で分かりやすかったのが本書である。著者は2000年11月から03年3月まで共同通信ワシントン特派員だった。在日米軍だけを見ていては米軍再編は理解できないことを丁寧に示している。
2001年の9・11を契機に米軍は、世界規模で再編を始めた。重厚長大型の軍隊から小回りの効く「ハイテク・機動力型」軍隊への転換。固定基地で「ソ連・共産圏」を包囲していた時代から、地球上のどこでもスムースに兵力を送り込める体制への再編である。著者はジャーナリストらしい筆致で理解しやすくその間の事情を解説する。
在日米軍と自衛隊についても、「世界の中の日米同盟」をうたい文句にする新しい関係は、カバー領域を「日本・極東」どころか、「アジア・太平洋」の枠すら越えてしまったと指摘する。確かにテロ特措法、イラク特措法には「日米安保条約」という文言が登場しない。
岩国への艦載機移転は、今回の在日米軍再編の目玉である米本土ワシントン州フォートルイスにある米陸軍第1軍団司令部のキャンプ座間(神奈川県)移転をなんとしても実現したい米側の発想―。司令部移転によって負担の増す神奈川県への「アメとムチ」だという。その後の横須賀(神奈川県)への原子力空母配備発表などを考え合わすと納得できる説である。
そして第1軍団司令部の座間移転の背景には、米軍の中で存在感が薄れつつある陸軍を冷戦構造の残滓の残るアジア・太平洋地域で強化し、組織全体の生き残りをかける点にある、というのも説得力がある。
全体に取材の確かさを感じさせる。安全保障問題についての日本の政治の不在ぶり、政治の場を越えて、防衛官僚を含めた日米の「制服組」同士の連携が思っている以上に深まっている状況もよく分かる。そして分かれば分かるほど、米軍の思惑通りに振り回される日本、自衛隊の姿に暗澹となるのである。 |