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株式会社 廣文館
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コラム・ブックレビュー
広島在住のジャーナリストによる “書評”コーナー!
「書物の魅力」を 月1回のペースでお届けします。

「遊戯」
藤原伊織著(講談社・1575円)

何年か前、手にした小説に魅入られてしまった。「テロリストのパラソル」である。全共闘世代の中年男が爆弾事件に遭遇するところかから始まる。息詰まるようなドラマを、夜明けまで一気に読んだ。とても途中でやめられなかったのだ。1995年に江戸川乱歩賞、翌年に直木賞を受けた作品である。それ以来、図書館に行くたびに、彼の作品を探した。

「ひまわりの祝祭」「雪が降る」「てのひらの闇」「蚊トンボ白髭の冒険」「ダナエ」「ダックスフントのワープ」。彼の作品を手にするたびに、睡眠不足になった。なぜこんなに惹きつけられるのだろう、と読むたびに問い返した。同じ世代で共感できる状況が多かったこともある。勤めていた広告業界の様子がいきいきと描かれている。そして、
彼の「せつなさ」「悲しさ」「優しさ」が胸を揺さぶったのだと思う。

今年5月、突然の死亡記事を見た。2年前に告白していた食道がんで世を去った。まだ59歳だった。5編からなる連作と遺作を収めたのがこの「遊戯」である。死後の7月に刊行された。

虐待された経験を持つ人材派遣会社勤務の本間透と、モデルをめざす朝川みのり。ネットゲームで知り合った2人を軸に連作は進んでいく。お互いの存在を意識しながら、それぞれの生活を続ける2人の断片を綴ったストーリーは、未完のまま途切れる。闘病中に書かれたこの連作は、この後どう展開されるのかは、残念ながら想像するしかない。

東大から電通というエリートコースを歩むが、ギャンブルと酒を愛し、「無頼派作家」と言われた。そういえば、作品にちょっと破滅型の人物が出てくる。でも、繊細で都会の寂寥感を抱えた主人公の生き方は、「無頼」とは少し違うように思う。

これから、藤原伊織の新しい作品を読むことができないのが、とても寂しい。

【ジャーナリスト・枡田勲/2007.12.26】


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