同じジャーナリズムに携わる者として著者ジェイソン・レオポルドの心模様が手に取るように分かる作品である。現在、米国の独立系メディアを中心に活動している著者の自叙伝的な作品。フランスの泥棒詩人ジャン・ジュネを思わすような波乱の人生をテンポよく語る本書は、翻訳も読みやすく小説よりおもしろい。
著者は破滅的な青春時代を送る。コカインとアルコール中毒になった末、盗み、詐欺の常習者となる。妻となるリサによってからくも立ち直り、ジャーナリズムの世界に入るが、繰り返すコカインとアルコール。どうにか麻薬を絶ったとき彼の前には、コカインと同じような高揚感を覚える特ダネ競争があった。
薬と窃盗、詐欺の世界に漬かっていたニューヨークを逃げ出し、ロサンゼルスに移った著者は過去を隠し、地域通信社から地方紙、大手経済通信社のダウ・ジョーンズのロサンゼルス支局長へと這い上がっていく。そこにあったのは電力危機のカリフォルニア州とそれを食い物にした大手電力会社、州政府役人たち。ジャーナリストとしての倫理などおかまいなしに、平気で嘘を重ねて次々と特ダネをものにしていく著者。その姿はまさに「ニュース・ジャンキー」である。
特ダネを追い求める著者はついには情報提供者の罠にはまって誤報を出してしまう。ダウ・ジョーンズを解雇されるような形で辞めたのち、著者はネット・ジャーナリズムの世界で現在のブッシュ政権で陸軍長官を務めたトーマス・ホワイトの汚職疑惑に迫っていくが、これもつぶされてしまう。
ジャーナリストとして許されない取材方法、あまりの虚栄心の強さ、エゴイストとしか言えない性格にへきえきしながらも「特ダネ」を抜く快感を正直に書く著者の姿には、どこか共感を覚える。さらに、あえて言えば特ダネを抜くために著者が重ねる「だまし」をも含めた取材の数々。悪辣とはいえ、そうした取材、努力もせずに発表記事や玄関ダネだけでお茶をにごしている記者がいかに多いかを思うと、若い記者たちに本書を読ませてみたいとも感じる。
著者は今、米ジャーナリズムの主流を追われ、独立系メディアを主戦場とする。しかし、ひた隠しにしていた自らの過去を赤裸々に語った本書を機にジャーナリストとしてさらに成長することを期待する。
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