昨年末、東京から一冊の本が届いた。
著者は元ニッポン放送記者。取締役・編成局長時代に、いわゆる「ホリエモン」のニッポン放送株買収問題に巻き込まれ、亀淵社長とともに2005年に退任した。その彼は、早稲田大学時代の同級生である。退任の挨拶状に「しばらくのんびりしたい」とあったが、こんな労作を書いていたとは。
副題に「海を渡ったご先祖様たち」とある。放送記者をしていたとき、取材や旅行で海外に出かける機会の多かった彼は、「最初の渡航者」「最初の居住者」に思いをはせた。そして、その足跡を訪ね、資料、文献をあさって22話にまとめている。
幕末から明治にかけて、多くの日本人たちが世界各地に渡った。南アフリカ・ケープタウン、ニューカレドニア、トルコ、チリ、サウジアラビアなどなど。こんなにも日本人が雄飛していたのだから驚きである。貧しかった時代、東南アジアからアフリカまで進出していた「からゆきさん」のたくましさ。欧米に渡った使節団や留学生たち。明治人の心意気がいきいきと描かれていて、興味が尽きない。
広島県関係では、日本人初の回教徒になってサウジアラビアに渡った山岡光太郎がいる。福山市に生まれ、東京外大ロシア語科を卒業後、陸軍に入って日露戦争に出征。軍機関に勤務をしているころ、タタール人の回教徒と知り合い、聖地メッカへ巡礼することになる。1909(明治42)年、29歳の山岡は日本を出て2カ月後にメッカに入った。半年滞在し、現地では異国の回教徒として大歓迎を受けた。山岡が苦労を重ねながら踏破したサウジアラビアは「アラビア縦断記」として刊行されている。
今度会ったら、酒を酌み交わしながら海外の日本人について、話を聞きたいと思う。友人はありがたい。 |