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コラム・ブックレビュー
広島在住のジャーナリストによる “書評”コーナー!
「書物の魅力」を 月1回のペースでお届けします。

「人民解放軍は何を考えているのか〜軍事ドラマで分析する中国」
本田善彦著  光文社新書(760円+税)

 いったい何が書いてあるのか。タイトルに引かれつい買ってしまった。前書きで著者が述べているように、中国国内で放映されているテレビ番組、それも軍事ドラマを視聴することで人民解放軍の思想教育の現状、最新の軍内事情を探ろうというのである。

 読んだあとの第一感想は、中国国内で放送されているテレビ番組についてまったく無知と言ってもいい私などには「へー」の連続だった。最近でこそ情報の公開度は高まっているとはいえ、基本的には閉じられた国。そのなかでもほとんど内情が知られていない中国人民解放軍の内部がこうした大衆的な形で紹介され、兵士、国民を教育しているのか、と興味がつきなかった。

 著者は中国には、「広播電視管理条例」(ラジオ・テレビ管理条例)があり、その第3条は「ラジオ・テレビ事業は、人民に奉仕し、社会主義に奉仕する方向を堅持し、正確な世論をみちびかねばならない」と定めている、という。いわゆる「表現の自由」「報道の自由」とは、かなり遠いところにある。それだけに番組内容は逆に今の政府、軍の考えに近いと強調する。

 本書はどんなテレビドラマが放映されているか理解を助けるためそれぞれのストーリーをかなり詳しく紹介している。それを読むだけでも結構面白い。紹介しているのは「沙場点兵」(「沙場」は中国語で「戦場」を意味するという)「垂直打撃」「天山緊急出動」「国家使命」など数多い。併せてそのドラマが伝えたいとするメッセージも解説している。

 例えば「沙場点兵」は、@上官が飲食の接待には金を惜しまないが、二言目には「金がない」と騒ぐのは現実そのもの、形式主義がはびこっている軍の実態をよく描いているA一方で軍の近代化、特に情報化の大切さを強く訴えている―と説く。軍の協力がないと作れない作品のうえ、放映後の解放軍内の機関紙などの反響を織り交ぜての解説だけに説得力がある。

  著者は現在、台北に住みフリーのジャーナリストとして活躍している。一時期、台湾の国際放送「自由中国之声」の記者兼アナウンサーもしていたという経歴からもこうした本が生まれたのだろう。できれば実際に中国のテレビ軍事ドラマを見てみたいと思わせられる本である。
【広島経済大教授 小野増平/2008.9.28】


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