なんとも挑戦的な本である。南々社編集部は、「はじめに」で本書の出版意図を述べる。
3年前の2005年12月、藤田雄山・現広島県知事の後援会事務局長が政治資金収支報告書の虚偽記載の疑いで逮捕された。事件は県議らに知事選対策費が渡ったとされる疑惑、自民党広島県連への“上納金”疑惑などに発展。県議会は2度の知事辞職勧告決議案を可決したものの不信任案は否決。藤田知事は何事もなかったように現職にとどまり、県議会も昨年10月、事件の真相解明を断念した。
事件はあっという間に風化した。酒の席での話題に上ることすらなくなった。
「いったいこの間の3年間は何だったのか」。これこそが本書を編んだ南々社編集部の出版意図なのだろう。その思いを「元後援会事務局長への電話インタビュー」「県議への緊急アンケート」「県議会権力闘争の構図」「識者インタビュー」「報道機関の取り組み」などに分けてぶつけた。400ページに及ぶ力作である。
下手に手にするとやけどするような本である。とりわけ「広島県政界の『闇』の背景」と題した中国新聞編集委員の特別寄稿。「不正疑惑を徹底追及せずして、平和を語るな!」(佐高信氏)、「怒るべきときは、怒れ!」(浅野史郎氏)、「県民の記録閲覧請求で『実名開示』の壁は打ち破れる」(郷原信郎氏)らの識者インタビューは迫力がある。「評論家は何とでも言える」と思いながらも、広島県民の一人として、さらには過去、同報道に関わった責任者の一人として背筋を正される思いがする。
一方、本書の「売り」としてトップ記事に据えた「元後援会事務局長への電話インタビュー」「県議緊急インタビュー」などは、編集部の思いが空回りした。答えないこと、回答がないことも一つの意思表示と考え、あえて質問を列記し、「回答なし」を並べたのだと思われる。だが、これはあまりに一方的な手法だろう。電話インタビューそのものが安易である。読者への説得力に欠けるうえに素朴すぎると言われても仕方がない。
本書は報道についても厳しく問う。とりわけ地元紙の中国新聞に厳しい。だが、中国新聞の努力なくしてこの問題の広がりはなかった。同紙は問題が明らかになったときからマスコミの先頭に立って精力的な報道を展開した。一線記者は寝食を忘れ約3年間に及ぶ長丁場を乗り切った。目に見える結果が出なかった、徹底追求が出来なかったから、といってそれら一線記者の努力を無視したり、忘れるべきではない。
問われるべきはだれよりも藤田雄山・現知事である。こうした本が世に問われても一顧だにせず、歯牙にもかけないように見受けられる。詳しい説明もせず自らの思いも語らない。まさに「何事もなかった」かのように知事のイスに座り続ける。本書には欠点も多々ある。だが、それらを補ってあまりあるのが県政、政治、報道にかける編集部の熱い思いである。私たちは本書を売らんかなの類書と同一視し、返本の山の中に埋もれさせてはならない |