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株式会社 廣文館
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コラム・ブックレビュー
広島在住のジャーナリストによる “書評”コーナー!
「書物の魅力」を 月1回のペースでお届けします。

「自分史味の昭和断片」
松永 仁著 渓水社 3500円

書名をすべて書くと「自分史味の昭和断片 真珠湾からポプラまで」となる。本書はその通り1936(昭和11)年生まれの著者が、自らの来し方と、昭和の時代をダブらせながら、「3人の孫に残す目的で書きためた」ものである。さまざまなことが書いてある。しかし、著者にとっての昭和の断片とは、戦争と原爆に尽きるようだ。この二つを軸に本書は自分史を描いている。

著者は広島大仏文科を卒業後、58年にRCC中国放送に入社、ラジオ制作、ラジオ報道、テレビ制作に携わり、74年に同社を退社。フランスに渡ったあと、80年に「フランスを放逐され、通訳としてアルジェリアの地を踏んだ」(同書)。87年に日本に帰国し、02年から広島市袋町小学校平和資料館・運営協力委員を務める、という。

内容的には工夫を凝らした一書である。駆け出しのラジオ時代に取材・制作した「村の九軍神」を思い出しながら、こだわり続ける昭和の断片を書き始める。特殊潜航艇で真珠湾攻撃に加わった兵士の「栄光の軍神一家、終戦、その転落」である。こだわりは天皇制の追及におよぶ。天皇の戦争責任は?

次いで「断片」は原爆に飛ぶ。RCCに入社したものの原爆報道に不信感をいだく。長男の誕生で初めて取り組んだ被爆二世問題。作品としてはすぐれていたが、協力してくれた二世を傷つけてしまった。二つに分かれた原水禁運動の中で分裂回避に努力した山口県原水協の平和行進取材…。若々しいラジオディレクターとしての思い出が生き生きと描かれている。

最も力が入っているのは、著者が袋町小学校の平和資料館とかかわりを持ち始め、精力的に取材・執筆したとみられる「指の鳴る音」である。指の鳴る音とは、袋町小学校の焼けた漆喰壁に書き残された被爆伝言に登場する瓢(ひさご)文子さんが、被爆後遺症で亡くなった姉を荼毘に付したとき、遺骨が手の指先しかとれなかった。その骨を「缶に入れると、カラン、カランと音がして悲しくて涙が止まらなかった」という文子さんの談話からとった。

著者は02年4月から同資料館の運営協力員として働く。「1日おきの勤務で、1日おきに伝言を眺めた」。伝言をめぐってさまざまな疑問がわき、それを解明していく。最初に伝言を書いたのはだれか? 伝言に出てくる人々の安否は?瓢さんに会いに福岡まで足を伸ばした。こだわりは袋町小学校の集団疎開の実態解明へと進む。

最後は「ポプラが語る日」である。広島市の基町河岸にあったポプラに魅され、ポプラの取材を続ける。結局、テーマは基町の「原爆スラム」の話となる。戦後、行き場所の無くなった被爆者や在日朝鮮人、引揚者が肩を寄せ合うように住みつき数度の大火に遭う。その大火で2度も火元となったアパートの経営者も朝鮮人だった。ポプラは黙ってその歴史を見続けた。

戦争と原爆を基調音に多面的に構成されている。難を言うと自分の取材と、資料や文献の知識が入り混じって判別が難しい点である。とくに「天皇制」や、「スウィーニー始末記」にそれを感じる。

また、正直言うと評者には著者の略歴が興味深かった。中国放送をなぜ社歴16年で辞めたのか、フランスから「放逐された」のはなぜか、アルジェリアでの企業通訳とはどんな仕事だったのか、日本に帰国後、02年から袋町小学校の平和資料館の運営委員を務めたのはなぜ。なぜ、なぜ、と著者のプライバシーにかかわる疑問が次々と出てくるのである。

それというのも本書の構成が「自分史味」に味付けはされているが、自分史そのものではないため、つい欲求不満になってしまうからである。多分に著者の美学なのだろうが、次はもっとストレートな自分史を読みたいと思ってしまった。

【広島経済大学教授 小野増平 2009/5/30】


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