廣文館廣文館

廣文館

店舗ごあんない
本を探す【e-hon】
本を注文するには
お買い得の本
ひろしまの本

HON-TOカード
コラム・ブックレビュー
スタッフ募集
お役立ちリンク集
会社概要
IR情報
HOME


株式会社 廣文館
〒730-0035
広島市中区本通り1-11
TEL:082-248-2391 
FAX:082-248-2393
E-mail:info@kobunkan.com
コラム・ブックレビュー
広島在住のジャーナリストによる “書評”コーナー!
「書物の魅力」を 月1回のペースでお届けします。

「戦場 学んだこと、伝えたいこと」
長嶺秀雄著 並木書房(1700円+税)

最近、知り合った陸上自衛隊の古参1尉に「貸してあげるから読んでみなさいよ」と勧められた。この古参1尉は、イラク派遣で6ヶ月間をサマワで過ごしたことがある。下士官からの叩き上げでもある。どんな本を読めというのか興味があった。

著者の長嶺秀雄さんは旧陸軍の士官としてノモンハンから中国戦線を経験し、太平洋戦争が終わる1年前にフィリピンに派遣された。レイテ作戦によって1万3千人の兵のうち1万人を超える戦死者を出した第1師団で歩兵57連隊・第2大隊長を務めた。大隊663人中、生きて帰ったのは著者を含め18人のみである。戦後は陸上自衛隊に入り、ここでも普通科連隊の大隊長を務めた。

そんな経歴の著者が“淡々”と戦場を書いたのが本書である。「戦場は死の環境である」。著者は気負いも、悲壮感もなく何度もこの言葉を繰り返す。「死なんと思えば生き、生きんと思えば死す。生死を思うな」。上杉謙信のこの言葉も引用する。過酷な戦場で生き抜く方策など何もない。あるのはただ、目の前の自分の任務だけである。

戦場における兵士(著者は「兵隊さん」と呼ぶ)の関心事は1に食事、衣服、宿舎、病院など、一身上の快適に関することであり、2に勝利と生存を可能ならしめることである、と英国のウェーベル元帥の言葉を引いて説く。著者は指揮官としてこの通りに糧食と資材を整えることに意をつくした。圧倒的な火力をもつ米軍を相手にゲリラ戦に移ってからどうやって塩をつくったか、頭も上げられない塹壕戦にあってトイレがどれほど大事か。死の環境の戦場にあった指揮官にしか語られないことがページを埋める。

そこには、なぜ自分が、兵隊がここで死んで行かなければならないのか。なぜソ連軍を、中国軍を、米軍を相手に戦わなければならないのかといった問いは一切ない。所与の事実として戦場、戦闘、部下の掌握を書く。最後の「終戦」の章、軍旗、戦死者の取扱い、銃後、捕虜、慰安婦、祖国の項になってもそれは変わらない。

本書を貸してくれた陸上自衛隊の古参1尉はイラク派遣が決まったとき、父親ががんで死期が迫っていた。それでも出発した。「父も望んだし、私も行きたかった。任務でもありましたから」。中国大陸、レイテで死んで行った数え切れない兵士の大半も死の環境の中で、所与の事実として死を受け入れたのだろうか。二度と繰り返してはいけないことである。

【広島経済大学教授 小野増平 2009/7/1】


▲ページトップ back

Copyright(C)2005 KOBUNKAN.All rights Reserved.