この秋、中央公論文芸賞、島清恋愛文学賞、柴田錬三郎賞という3つの賞を手中に収めた作品である。たまたま、著者の「星々の舟」を読んだ後に、新聞記事の「顔」欄で3賞受賞を知った。これも何かの縁だろうと読む気になった。
主人公は35歳の脚本家、奈津。性的な飢餓感や夫からの抑圧に耐え切れず家を飛び出し、編集者や演出家らと次々関係を持つ。男性遍歴の中で揺れながら、くびきから解放されて自立していく姿を描いている。
純愛、ピュアといった青春純愛小説を得意としてきた著者が、ほぼ等身大の女性を主人公にした。作中で奈津は「誰も傷つけないかわりに自分も傷つかずに済むようなものばかり書いていて、いったい何になるというのか」と思う。それは、そのまま著者の気持ちだろう。タブーとしてきた性愛を描くことで、それまで着ていたものを脱ぎ捨て、新たな道を模索したのである。
大胆な性の描写は、時にこっけいで、時に哀しい。女性は性を通して変わらざるを得ないのか。男性にはうかがい知れない深遠な思いを感じる。
「遠い花火のようだった。遠いけれども、消えない花火。だが、自分が欲しいのは、あの灯りの一つではないのだ。 ああ。なんて、さびしい。どこまでも自由であるとは、こんなにもさびしいことだったのかー」
奈津は自由を得る代償として、孤独を受け入れる。ラストシーンは著者の作家としての覚悟がにじんでいる。3賞の受賞は、その脱皮へのごほうびだったのかもしれない。
次なる作品を読みたいと思う。
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