書物が読まれるかどうかは、タイトルがかなりのウエートを占めるかもしれない。「バカの壁」が爆発的なベストセラーになったのも、その例ではないかと思う。
この本を手にしたのも、このタイトルにひかれた面は否めない。月刊誌の「小説現代」に連載されたコラムをまとめたものだが、その中の一つ「世にも恐ろしい読物」を読んで、このタイトルの意味が分かったような気がした。こんなくだりがある。
たとえば、「鳩のあられ切り炒めレタス包み」というレシピの、鳩のところをすべて人間に置き換えて読むのです。
下準備―人間は半日水に漬けて解凍し、内臓を取り除く。
作り方―人間は背に一本、胸に二本、背に沿って包丁を入れる。腕の付け根の骨を外す。腕から股に向けて引っ張り、片身を外す。反対側も同様にして外す。…胸肉、股肉はみじん切りにしてボウルに入れ、調味料で下味をつける……。『中国料理入門』
またあるいは「家鴨の変わり揚げ」。もちろん家鴨(アヒル)を人間と置き換えて読みます。
下準備―人間は一晩水に漬けて、解凍する。
作り方―人間は首を切り、肛門から下も切り落とし、内臓を抜く。切り落とした首は、あとで飾りに使うのでとっておく……。
時刻は真夜中の2時、料理のレシピを置き換えて読むうちに、恐怖がじんわりと湧きあがってきます。
著者が「ふふふふ」と笑っている姿が浮かんでくるようだ。いたずらっぽい著者だが、時の権力には舌鋒鋭い。
2007年4月、事情があって赤ちゃんを育てられない人のために預かってあげようという「こうのとりのゆりかご」(通称「赤ちゃんポスト」)が熊本県の病院に設置されたことを取り上げた一文。ヨーロッパの修道院や教会では、古くから赤ちゃんを受け入れている。今回の設置について、当時の安部晋三首相は「親として責任を持つべきで、たいへん抵抗を感じる」という談話を出した。
このことに対し、「目の前の赤ちゃんに何の手も打たず、ただエラソーにお説教をする国と、ひとことも責めることなく母子の健康を気づかう国と、どちらが『美しい国』なのか」と皮肉っている。
戦のできるフツーの国になるために、日本国憲法の平和主義を外そうとする「改憲」論者には、こう言い放つ。
ジェット機から翼を取ったら粗大ゴミで、自動車からハンドルを取ったらただの鉄の箱である。日本国憲法からその本質を盗み取られたのでは、日本国憲法ではなくなる。…「(日本国憲法を)別のものにして戦争したいのだ。これは革命だ。クーデターだ。覚悟しろ」と、はっきり啖呵を切ったほうがいい。せこいごまかしは、もうたくさんだ。
胸がすっとする啖呵(たんか)である。井上ひさしさん、右傾化する世の中に警鐘を鳴らし続けてください。
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