先日、2010年の本屋大賞に沖方丁さんの「天地明察」が選ばれた、と発表があった。書店をのぞくと、これまでの本屋大賞作品が並んでいた。
いずれも良く知られた作品ばかりだ。例えば、2004年は小川洋子さんの「博士の愛した数式」、2005年は恩田陸さんの「夜のピクニック」、2006年はリリー・フランキーの「東京タワー オカンとボクと時々、オトン」、2008年は井坂幸太郎さんの「ゴールデンスランバー」などなど。
そこで、湊かなえさんの「告白」を手にした。2009年の受賞作で気になっていながら読んでいなかったからだ。筆者が因島市(現・尾道市)で生まれ育ったというのも気になった理由の一つである。
中学校の女性教師が、終業式後のホームルームで教師を辞職することを告げる。そして、その経緯を語り出す形式で物語が始まる。先ごろ亡くなった彼女の4歳の娘は、学校のプールで転落した事故死とされていた。ところが彼女は「(娘の)愛美は事故で死んだのではありません。このクラスの生徒に殺されたのです」と告白する。第一章の「聖職者」から「殉教者」「慈愛者」「求道者」「信奉者」「伝道者」の六章まで、「語る」という形式で、息を飲むストーリーが展開される。
娘を殺された教師、担任クラスの女生徒、犯人の母親、犯人である生徒、もう一人の生徒、と「語り」の中から、事件の真相があぶり出される。それぞれの「告白」に引き込まれて、一気に読んでしまった。
新人作家のデビュー作品という。だが、その筆力、緻密な構成力に舌を巻いた。彼女の次の作品を読んでみたい。本屋大賞は書店員が投票して選ぶ。その選ぶ眼の確かさに、さすがだと思った。本屋大賞が芥川賞や直木賞などと同じように注目されるのも、当然であろう。
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