この本を購入したのは、10年ほど前のことである。だが、そのまま本棚の片隅に置いてしまい、その存在すら忘れていた。本棚から他の本を探している時に、たまたま目に入った。
購入したきっかけを思い出した。定年後、趣味だった陶器の店を開いた友人の勧めだった。陶器の作家を訪ねて、自分が好きな作品を売る小さな店で、第二の人生を謳歌している姿に共感している。「これからの人に勧める一冊といえば『君たちはどう生きるか』ですよ」。そう言って、友人は胸を張った。
本書は「路傍の石」で知られる山本有三の編纂で、1937年に全16巻が完結した「日本少国民文庫」の第5巻である。満州事変が起こり、軍国主義の色彩が強くなっていた時代。著者は、「山本先生は偏狭な国粋主義や反動的な思想を超えた、自由で豊かな文化を伝えておかなければならないし、人類の進歩について信念を今のうちに養っておかねばならない、というのでした」と書いている。
「著者がコペル君の精神的成長に托して語り伝えようとしたものは何か。それは、人生いかに生くべきかと問うとき、常にその問いかけが社会科学的認識とは何かという問題と切り離すことなく問われねばならぬ、というメッセージであった」
文庫本の表紙にこう書かれている一節は、巻末にある丸山真男の「『君たちはどう生きるか』をめぐる回想―吉野さんの霊にささげる―」から引用している。
主人公は中学生の「コペル君」。科学者のコペルニクスをもじったあだ名である。15歳の少年が、学び、思い、そして悩みながら成長していく過程がつづられている。丸山は、コペル君のためにノートを書き、人間と社会への眼を開かせる「おじさん」の立場で巻末の文章を記したようだ。
読み始めて「しまった」と後悔した。なぜ10年前に読まなかったのだろう、と。タイトル通り真面目な本だが、実に興味深く面白いのである。青春時代に出会う機会があったら、私の人生も変わっていたかもしれない、とさえ思うほどだ。若者に贈りたいこの一冊は、私もこの本になった。
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