自分はミステリー好きだと思う。だが、この本は不思議な読後感がある。背表紙に「新感覚ミステリー」と書かれていたが、まさにそんな感じである。
まず、設定がなかなかユニークである。「人文科学的実験の被験者になるだけで時給11万2000円がもらえる」。普通のアルバイトは時給800円くらいだから、11万2000円はべらぼうである。この破格な仕事に12人の男女が応募する。
車を買うお金欲しさにアルバイト探しをしていた学生の結城理久彦もその1人。コンビニにあった情報誌で時給11万2000円の仕事を見つけた。一週間の短期アルバイトだ。
舞台は、地下の実験用施設「暗鬼館」。そこに閉じ込められる。参加者は24時間監視され、途中退場は許されない。実験の内容は、より多くの報酬をめぐって参加者同士が殺しあう犯人あてゲームだった。館の名の通り、疑心暗鬼にさせるさまざまな仕掛けがほどこされている。最初の事件をきっかけに次々と殺人事件が続き、その謎を結城理久彦が探偵役で追う。後半は二転三転、なかなか凝った流れになっている。
著者は「ミステリー読者はこういうことを愉しむのか、喜ぶのか、という外部の視線を強調したり、“内輪の話に淫しても、外部には伝わらない”という感覚を表現したりしたかった」と述べている。表題の「淫してみる」という言葉は、そのあたりを意味しているのだろう。
ただ、読み始めたころはどうしても「何のために暗鬼館という設定をしたのだろう」という疑問がぬぐえなかった。後半部分は一気に読みきったが、「金持ちの単なる余興にしては…」という違和感は、読んだ後も残った。そこが、まさに新感覚のミステリーなのかもしれない。
「インシテミル」は映画化されて、この秋から上映されている。この本を読んで、どんな映画になっているか、見たいと思った。久しぶりに映画館に足を運ぼうか。
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