理由はない。なぜか無性にハードボイルド作品を読みたくなる時がある。そんな時にちょうど本屋で見つけたのがこの本である。
1990年に発表されたシリーズ第1作「新宿鮫」は、大沢在昌の出世作。シリーズ第4作の「無間人間」が直木賞を受賞している。「絆回廊」は10作目という節目の作品である。新宿鮫シリーズは610万部のベストセラーという。私も「新宿鮫」のファンで、これまでシリーズは欠かさず読んできた。
新宿署生活安全課の鮫島警部、人呼んで「新宿鮫」。キャリア警察官だが、警察内部の抗争に巻き込まれて、はぐれ状態になっている設定だ。今回は、ある密売人を呼びとめ、職務質問をしたところから物語が始まる。密売人は、見逃してもらうため情報を漏らす。22年ぶりに出所した大男が「警察官を殺すため、さまよっている」というのだ。
警察官を狙った犯罪を未然に防ぐため、鮫島は捜査を開始。その過程で不気味な犯罪組織と対峙する。
鮫島の唯一の理解者である生活安全課の桃井課長が、拳銃で撃たれて死ぬる。シリーズの新たなステージに立つのか、そろそろ終わりになるのか、そんな予感も。次回作が注目される。
乾いた文体、畳み掛けるようなスピード感のある会話、とりわけ鮫島の恋人でロックシンガーの青木晶とのからみが読ませる。血のつながりや人間同士の絆を込めたことから「絆回廊」というタイトルになったのだろう。
大沢の書評は、2002年の「ジョーカー」以来、2回目になる。多くの作品を読んできたが、やはり新宿鮫シリーズは、傑作である。これまでのシリーズ作品を読んでいないと最新刊は読めないケースもあるが、「絆回廊」は初めての読者にも楽しめる。
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