先日、辛口評論家で知られる佐高信さんの著書を読んでいたら、何カ所かで「今野敏の小説を読む」という文字が目に入った。何だかおかしかった。「へー、佐高さんが警察小説を愛読しているんだ」と。だからではないが、私も今野敏にはまっているところである。
今野作品を最初に読んだのは「隠蔽捜査」だった。2006年の「吉川英治文学新人賞」受賞作だ。それから、図書館で手当たり次第に借りて読んだ。その中のシリーズが「STシリーズ」である。
STとは警視庁科学特捜班。青山翔、赤城左門、山吹才蔵、結城翠、黒崎勇治の警視庁科学捜査研究所に所属する5人の専門家と、それを統括するキャリア組の百合根警部がメンバーである。飛び切りの美形の青山翔は筆跡鑑定と心理分析を担当。医師免許を持ち、本人は否定するが抜群のリーダーシップを誇る赤城左門。僧籍を持つ山吹才蔵は化学、同じく化学を担当の黒崎は武術の達人、露出過多の服装を好む美人の結城翠は物理担当。この個性豊かな5人が、優れた専門性を発揮して難問題を解決していくシナリオだ。
シリーズの今回は、新宿歌舞伎町の連続放火事件がテーマ。誰もいない部屋で不自然な発火が続き、その背景には中国マフィアが絡んでいるという設定だ。寡黙な黒崎は人間離れした嗅覚を備え「人間ガスクロマトグラフィー」と呼ばれる。やはり人間離れした聴覚を備える結城のコンビは、汗や鼓動の変化を嗅覚や聴覚で知いることができるので「人間嘘発見器」になる。この2人の活躍がみものである。
このシリーズは、5人の個性が生き生きと描かれ、お互いのやりとりが楽しい。これまでの警察小説と一味違うところが魅力のひとつである。こうした連中を、百合根キャップが四苦八苦しながらチームとしてなんとか纏めるところがまた楽しい。
黒の調査ファイルは、「黒」のタイトル通り黒崎が中心となって活躍する。STシリーズはメンバーにちなんだ「色+調査ファイル」になっている。青、赤、黄、緑、そして黒が完結編になる。読み終わると次が読みたくなる。色シリーズをまた再開してほしいと思う。
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