年とともに、集中力と持続力が衰える。だが、この本を手にして、自分もまだまだ捨てたものではない、と思った。200ページのこの本を一気に読んだのである。そうさせる力がこの本にはある。時々目がうるんだのは当然である。
しょっぱなにはなちゃんのママへの手紙が載っている。「はなはね、伝えたいことがあるんだよ。それはね、おべんとうが全部作れるようになったこと。びっくりしたでしょ。……ひとの悪口を言わない。笑顔をわすれない。全部、ママが教えてくれたこと。むずかしいな。いやだな、こまったな、と思っても、なんとかなるもんね。『きりかえ、きりかえ』って、ママがよく言っていたもんね。はな、もう泣かないよ。がんばるよ。」
安武千恵さんは33歳で亡くなった。乳がんになった後に授かった一人娘のはなちゃんを、どう育てていけばいいのか。死を意識していた千恵さんは、ブログをつづった。タイトルは「早寝早起き玄米生活〜ガンとムスメと、時々、旦那〜」。新聞記者の信吾さんがこのブログを基にまとめたのが、この本である。
千恵さんは「私がいなくなっても、料理ができる旦那なら、安心です。なぜなら、ご飯を作ることは、生きることと直結しているからです。ムスメにも、包丁を持たせ、家事を教えます。勉強は、二の次でいい。健康で、生きる力が身についていれば、将来どこに行っても、何をしても生きていける」とブログにつづる。
また、こうも言う。「何もできない彼やムスメだったら、心残りがありすぎて、おちおち天国へ行けないっちゅーはなしです。毎晩化けてでなくちゃなりません。だから、厳しいと揶揄されようとも、彼と彼女が自分の足で生きていけるようになるまで、心を鬼にして、躾するまでです。そして、日々祈るのです」
5歳になった時から、朝ご飯の支度をムスメに任す。声を出したいところをぐっと我慢して。もちろんヘルプはするが。この母の祈りに、はなちゃんは応えるのだ。そして、お弁当まで一人でできるようになる。
人間はいつかは死ぬ。これは誰でも避けられない。天寿をまっとうして亡くなる人もいれば、生まれてすぐ赤ん坊のうちに亡くなる命もある。千恵さんのように、幼いわが子を残して死んでゆくほど過酷なことはない。
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