野球は暑い夏と汗がよく似合う。8月は甲子園の高校野球が開かれ、プロ野球も熱い戦いが繰り広げられている。私は野球ファンで、とりわけ広島カープファンである。今季のカープは、現在3位と大健闘。クライマックスシリーズに向けて楽しみが広がる。
ぶらりと寄った本屋で、こんなキャッチコピーが目に入った。「こんなにおもしろい野球(ベースボール)小説が日本にもあった!!」。野球ファンの心をくすぐる文庫本の帯の文字である。タイトルが「八月からの手紙」だけに、何とか8月中に読もうと手に取った。キャッチコピーの言葉通りだった。分厚い文庫本を一気に読み切った。
戦後間もない1946年。プロ野球の1リーグ制の日本で、既存の野球連盟に対抗して新たに「日本リーグ」を立ち上げようとする男たちがいた。戦前日本の職業野球で短期間だけ投げていた日系二世の元ピッチャー八尾健太郎が、重要な役割を演じる。
戦時中、アメリカ国籍があるのに日系人はカルフォルニアの収容所に入れられていた。その収容所にいた八尾を支えてくれたのが、黒人だけのニグロリーグのスター選手ギブソンとの友情だった。八尾は収容所の日系人たちで野球チームを作ろうとする。絶望と屈辱の日々を送っていた彼を、野球が救ってくれた。
野球は、日米に間に横たわる海も人種も超えた。筆者は大戦をはさんだ1939年から46年までの8年間、日系人の野球選手と黒人の野球選手の友情と、時代の運命に翻弄される生きざまを、抑えの利いた筆致で見事に描写している。
物語の中には、川上哲治、千葉茂、テッド・ウイリアムズ、ボブ・フェラーといった往年の名選手を実名で登場させている。架空の人物と実在の人物を配することで、その時代をあぶりだしている。
野球小説だが、野球ファンでなくても楽しめる。もちろん野球ファンなら、さらに面白いこと請け合いである。
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