芥川賞と直木賞は、文学賞の中でもとりわけ知られている。どちらかの賞をとれば、小説家として食っていける。だが、受賞したからといって、その人の書いた小説が面白いかどうかは別である。
ただ、芥川賞と比べて直木賞の方が、はずれが少ないように思える。既にそれなりに売れている作家が直木賞を受賞するケースが多いので、確率から言っても当然のことだろう。2013年の直木賞を受けている著者らしく、期待を裏切らない作品だった。
短編が6つ。一貫して北海道を舞台にした情景を描いている。「波に咲く」は、親から継いだ牧場で黙々と牛の世話をする秀一と、嫁来い運動で中国から迎え入れた花海(ホアハイ)との心のひだを、北の風景とともにつづる。期待もせず、絶望もしない男と女。渇いた文体と、醸し出す哀感にひきつけられてしまう。
15歳の時に父親がラブホテルを開業し、著者は部屋の掃除など家業を手伝った経験がある。直木賞受賞作の「ホテルローヤル」はラブホテルを舞台にした作品だ。「新官能派」とも呼ばれているようだが、性愛への冷めた視線は「官能」とは少し違っているように思える。
作品を読みながら、北の大地の風に舞う塵や埃が目に浮かんできた。淡々と描かれているのに、ぐいぐいと小説世界に引き込まれてしまう。まさに、小説家としての才能がそこにあるようだ。
読み終わると、この人の作品がまた読みたくなる「渇き」を覚えた。次は何を読もうか。秋の夜長に、本を読む幸せのひととき。
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