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株式会社 廣文館
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コラム・ブックレビュー
広島在住のジャーナリストによる “書評”コーナー!
「書物の魅力」を 月1回のペースでお届けします。

祈りの幕が下りる時
東野圭吾著(講談社・1700円+税)

著者は、今、最も脂の乗っている作家である。湯川学先生のガリレオシリーズ「容疑者Xの献身」は期待の違わぬ作品だった。「加賀恭一郎シリーズ」は初めてだが、シリーズものに関係なく、なかなかの作品だと思う。

本の帯に「悲劇なんかじゃない これがわたしの人生」「極限まで追いつめられた時、人は何を思うのか。夢見た舞台を実現させた女性演出家。彼女を訪れた幼なじみが、数日後、遺体となって発見された。数々の人生が絡み合う謎に、捜査は混迷を極めるがーー」とある。読み終わってこのキャッチコピーをみると、さすがにいいところを表現していると感心させられる。

さまざまな事件が起きる。それが、最後に一本につながっていく。そのつながり具合がミステリー作家の熟練の技だろうか。途中から演出家で脚本家の角倉博美、本名「浅居博美」が犯行に関係していると分かる。それでも、事件の核心に向かって刑事たちがじわじわと追いつめていく様が読む人を引きつける。

加賀恭一郎がもともと警視庁の捜査一課にいて、現在、そこを離れて所轄にいる理由も明らかにされている。シリーズを初めて読む私のような読者は、背景を知らずに読んだので、前の作品をひもときたいと思ってしまう。

それにしても、売れっ子作家になると粗製濫造に陥りやすいのだろうが、これだけの重厚な書下ろし作品を生み出す力量に敬服する。そして、最後のページをめくったところにこんな文を見つけた。
「本書は自炊代行業者によるデジタル化を認めておりません。」

著者は電子書籍を拒否し、紙の本にこだわっているのだろう。電子書籍が広まっている時だけに、いろんな意見があると思う。私は、紙の本しか出さないという著者のポリシーに賛同したい。

【ジャーナリスト 枡田勲 2013/11/5】


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