福島第1原発事故から間もなく3年経つ。メルトダウンした原発は、汚染水問題をはじめいまだに収拾されていない。ところが安倍政権は事故を忘れたかのように、原発推進に向けて進み始めている。
原発再稼働を目指す電力業界、業界を所管する経済産業省、そして与党との政官財の舞台裏が描かれている。それも霞が関の現役キャリア官僚による告発小説というのだから、描写が生々しいはずである。昨年9月発売直後から、大きな反響を呼んでいるのも当然だろう。
電力業界は「モンスター・システム」といわれる巨大な集金・献金システムが出来上がっている。原発を動かして利益を得たい電力業界の思惑が、政府や官僚に行き渡るシステムだ。巨額のカネが原発推進に向けてばらまかれる。反原発を唱える団体や人は、あらゆる裏工作でつぶそうとする。そのあくどいやりかたを、見事にあぶりだしている。
関東電力の総務部長から日本電力連盟の常務理事に出向している小島巌と、経済産業省資源エネルギー庁次長の日村直史が暗躍する。関東電力は新崎県の新崎原発再稼働に慎重な新崎県知事を裏工作で陥れ、再稼働を進める。検察もぐるである。内部情報に詳しい人でないと出てこない実態が、本当にリアルに描かれている。関東電力はもちろん東京電力、新崎原発は柏崎狩羽原発がモデルである。
最後は、送電線爆破テロによって、新崎原発がメルトダウンする。原発ホワイトアウトである。日本の原発には致命的な欠陥がある。福島原発の事故を教訓としない原子力ムラによって、この国はいつか滅びることを暗示しているようだ。
著者の若杉冽さんは、本名や所属官庁など特定の個人につながる情報を一切明らかにしていない。覆面作家として執筆したのは、職務上、電力業界の姑息さや「日本の原発は世界一安全」というウソに間近に接した怒りだという。
霞が関では今、覆面作家の「犯人捜し」に血眼になっているだろう。官僚の中にも危険を恐れずに内部告発をする人がいることに、まだ救いがあると思う。昨年末に成立した特定秘密保護法は、こうした内部告発を抑え込みたいという権力者の企みかもしれない。
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