直木賞候補になること6回目。最初に候補になってから18年を経ての受賞である。疫病神シリーズと黒川博行の名前は知っていたが、この著者の作品を読むのは初めてだった。ヤクザノの桑原と、建設コンサルタントの二宮の大阪弁で交わす絶妙なやり取りに引き込まれてしまった。
コンビの会話といえば、毛色は違うが三浦しをんさんの「まほろ駅前多田便利軒」を思い出した。シリーズ5作目というので、本来は1作目の「疫病神」から読むのが常道だろうが、この作品だけを読んでもそんなに違和感はない。
ストーリーは、映画製作への出資金を持ち逃げされた桑原と二宮が、失踪した詐欺師をマカオのカジノまで追っていく。この事件に絡んで桑原が組織から「破門」されそうになるドタバタを描いている。
悪党たちがシノギを削るヤクザもののハードボイルドだけに、主人公の暴力性は当然のごとく出てくる。ヤクザ世界もなかなかリアルだ。しかし、大阪弁というのは、そのあたりを和らげる不思議な力を持っている。二宮にとっては桑原が「疫病神」という設定である。罵り合いながらも結局はコンビで追跡する2人の「ボケとツッコミ」のような会話におもわずニヤリとさせられる。
2人の追跡が延々と続く話だが、人物像を丁寧に描いている著者の力量がこの作品を奥の深いものにしている。黒川氏は「他に楽しみがない」と語るほどのギャンブル好きという。作品にもそれが反映されている。
シリーズ1作目の「疫病神」から、「国境」、「暗礁」、「螻蛄(けら)」を読んでみようと思う。
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