本が売れない時代である。だからといって出版社も手をこまねいているわけではない。買ってもらうために、あの手この手の企画を考える。その一番の“ヒット作”は、書店員の投票で選ばれる「本屋大賞」であろう。
書店をのぞいていたら「驚き!ぜーんぶ1位フェア」と銘打って講談社文庫が並んでいた。「1985年 週刊文春ミステリーベスト10第1位 東野圭吾『放課後』」、「2002年 本の雑誌が選ぶノンジャンルベスト10第1位 重松清『流星ワゴン』」、「2009年 一個人最高に面白い本大賞第1位 百田尚樹『永遠の0』」などなど。
その中にあった一冊が、「1995年 週刊文春ミステリーベスト10第1位 藤原伊織『テロリストのパラソル』」。実はこれまでに2回、それも図書館で借りて読んだ作品である。著者が2007年に59歳で逝った時に読んでから7年になる。今回購入した文庫本は、これまで一気に読んだのとは違って、ゆっくりとかみしめるように味わった。
全共闘世代の中年男が爆弾事件に遭遇するところから始まり、息詰まるようなドラマが展開される。私と同世代の作家が紡ぐ「切なさ」、「悲しさ」、「優しさ」が胸を揺さぶった。史上初の江戸川乱歩賞、直木賞のダブル受賞作である。乱歩賞の歴史の中で、予選選考、本選考とも満場一致でAランクの評価を受けた作品は本書ただ一作という。まさにミステリー史上に残る傑作だ。
素晴らしい作品は、何年たっても色あせない。1回目、2回目とはまた違った読後感がある。読む人の人生経験が、作品の新たな面を見出すからなのだろうか。藤原伊織の全作品を読んでいるが、また読み返してみたいと思う。本って本当にいいものですね。
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