時代小説を最初に読んだのは、まだ小学生のころだった。本棚の隅にあった10冊ほどの「太閤記」を何気なく手にして、引き込まれてしまった。以来、歴史好きになったようである。
柴田錬三郎の「眠狂四郎」、池波正太郎の「鬼平犯科帳」「剣客商売」、司馬遼太郎の「梟の城」「燃えよ剣」「竜馬がゆく」などなど、愛読した時代小説を数えだしたらきりがないほどだ。それでも、佐伯泰英の作品とは縁がなかった。新聞の広告に「シリーズ累計1700部突破!」とあるのを目にして、ほっておけなくなった。
サブタイトルに「居眠り磐音 江戸双紙1」とある。このシリーズの第1巻で、第1刷が2002年。最新は47巻になる。一年に4冊のペースで出されている計算になる。まさに平成の大ベストセラーだ。
時代は江戸中期。九州の豊後関前藩の藩士、坂崎磐音(いわね)が3年間の江戸勤番を終え、同藩の河出慎之輔、小林琴平と国元へ帰参するところから物語が始まる。3人は江戸で剣の腕を鍛え、特別な絆で結ばれていた。ところが、国元に帰ったとたんに行き違いや誤解などで切り合いになる。琴平が慎之輔を斬り、磐音が琴平を斬る運命に。磐音は江戸に舞い戻り、浪人生活を送ることになる。
居眠り猫が、突然目覚めたかのごとく鮮やかに斬り捨てる剣さばきから「居眠り磐音」と呼ばれる。春風のように穏やかで、思いやりの深い青年武士、磐音と江戸下町の人々との心温まる交流がホンワカとさせる。眠りは眠りでも、虚無的な「眠狂四郎」とはいささかキャラクターが違う。すっかり磐音のファンになって、読み終えたらまた次の巻を求めたくなるのが納得できる。
私も、早速、シリーズ47巻目の「失意の方」を買い求めた。大ベストセラーになるのも当然である。
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