「この映画は原作を超えている」。作家・松本清張の言葉を、今でも鮮明に覚えている。もう30年以上も前になる。映画「砂の器」のロケ地である島根県の山深い「亀嵩(かめだけ)」に、記念碑が建てられた時のことだ。原作者として出席した清張は、あいさつでそう言って映画の出来栄えを称えた。
原作を超えるテレビドラマや映画は、なかなかお目にかかれない。原作に感動して、テレビドラマや映画を見たら、がっかりという作品は多い。「ストロベリーナイト」は3年前、連続テレビドラマを楽しみに見た印象が残っている。主人公になる警視庁捜査一課の警部補・姫川玲子役の竹内結子がなかなかよかった。さらに、姫川を囲む曲者ぞろいの脇役たちの個性が魅力的だった。
その記憶が、文庫本を見つけたとき、つい読んでみようという気にさせた。本を手にしたとき、竹内結子の端正な顔が浮かんできた。姫川をリーダーとする捜査チームには西島秀俊、宇梶剛士、小出恵介、それに井岡巡査長役の生瀬勝久が、とりわけいい味を出していた。敵役の悪徳刑事“ガンテツ”こと勝俣には武田鉄矢。刑事としての矜持を見せる渋い演技だった。
本の方は、出だしが強烈だ。「目をえぐられた女 切り裂かれるその喉元 噴き出す鮮血―あなたは これを 生で 見たい ですか」とくる。凄まじい殺人事件と、個性をむき出しにした刑事たちによる熱い捜査に、いきなり引きずり込まれてしまう。
連続殺人事件の捜査線上に浮かび上がる、「ストロベリーナイト」と呼ばれる殺人ショーを生中継するウェブサイト。いささか残虐で悲惨な描写も、この物語を盛り上げる大掛かりな仕掛けだった。中盤に姫川が警察官になった過去のエピソードも交える。これがさらにこの小説の奥行きを上げる効果をもたらしている。
この著者の作品を読んだのは初めてだが、警察小説の傑作だと思う。このあと「ソウルケイジ」「シンメトリー」と、姫川警部補の活躍する物語がシリーズ化されたのも当然だろう。ドラマもなかなかだと思ったが、この作品は圧倒的に原作が優っていた。ほかの作品を読みたいと思う作家が、また1人増えた。
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