芥川賞、直木賞を頂点にいろんな文学賞がある。その中でも、読んで“はずれ”のないのが「本屋大賞」ではないかと思う。本好きの書店員が投票して選ばれるのだから、当然と言えば当然だろう。この本は2015年の本屋大賞第1位の作品である。
読み始めて、最初は登場人物の名前や国などが覚えられずに、何度も「主な登場人物」のページを見ることになった。だが、そこを過ぎると、ぐいぐいと引き込まれていった。
主人公は、ヴァンとホッサルという2人の男。ヴァンは「飛鹿(ピュイカ)」を巧みに操った元戦士で、奴隷として塩鉱山につながれている。そこに野犬の群れが襲い、かまれた奴隷は病に冒されて全滅する。生き残ったのはヴァンと家事奴隷の残した幼児だけ。鉱山を脱出して逃亡する2人の生き様から物語が始まる。
一方、野犬を媒介にした感染症が広がるのを恐れた医師ホッサルは、ヴァンが免疫を持っていると推測してその行方を捜す。家族の絆がテーマだが、感染症や免疫などの医学、生物の生命の関係、さらに国家間の暗闘劇が展開される。東から押し寄せ他民族を支配する東乎瑠(ツオル)帝国と辺境の少数民族。支配する者、支配される者、滅ぼされる者の葛藤や悲しみや恨みなどがからまって、重厚な作品になっている。
果てしなく続く争い、人間を襲う恐ろしい病気。ファンタジー小説ということだが、エボラ出血熱、シリアの内戦など現在の世界を見事に活写しているのだ。児童文学のノーベル賞といわれる国際アンデルセン賞受賞作第1作という。「深い森」を思わすような作家の力量に感服するばかりである。
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