この著者の作品で最初に読んだのは「世界の終わり、あるいは始まり」だった。探偵小説のような、そうでないような不思議な作品だった。そして、次に手にしたのがこの本である。何て長いタイトルだろう、と興味をそそられた。この「葉桜の季節」が重要な意味を持っていたことに気付いたのは、もちろん読んだ後である。
あらすじは、本の袖に書かれている文章を紹介するのが一番だろう。「何でもやってやろう屋」を自称する元私立探偵・成瀬将虎は、同じフィットネスクラブに通う愛子から悪質な霊感商法の調査を依頼された。そんな折、自殺を図ろうとしているところを救った麻宮さくらと運命的な出会いを果たして―とある。
主人公、成瀬が探偵修行で暴力団に潜入する話、霊感商法との絡みなど過去と現在が入り混じって物語が進む。読み進めていくうちに何か違和感というか、引っ掛かるものがあった。そして、最後の結末で「だまされた」と思った。違和感の元がこれだったのか、と苦笑いした。
「叙述トリック」だという。文章上の仕掛けによって読者のミスリードを誘う手法という。人間の思い込みっていうのはすごい。後から考えれば、成瀬の後輩のキヨシが高校生というのも引っ掛けである。麻宮さくら=古野節子というのも、見事にしてやられた感じである。そして、さくらの名前はタイトルに掛けている。種明かしをしてしまうと気が抜けるので、これくらいで後はぜひ一気に読んでもらいたい。
2004年のあらゆるミステリーの賞を総なめにしたが、ミステリーファンからは評価が分かれると本という。私はどんな「葉桜の季節」を迎えているのだろうか、と思いをはせながら、もう一度読んでみたい。
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