きっかけは、人それぞれだろう。一度も読んだことのない作家の作品を、どうして手にしたのか。口コミ、広告、新聞や雑誌の読書欄、世間の話題、テレビドラマ、タイトルにつられて、書店で偶然…。何はともあれ、「本との出会い」は幸せな時である。
この著者との出会いは、書店で文庫本が目に付いたことだった。「探偵の探偵」の表紙に、北川景子さんの顔があった。北川さんが主演した同名のテレビドラマの原作本である。正直言って、著者の名前はよく知らず、その作品も初めて。ハードボイルド好きということもあって、読んでみようという気になったのである。
それから半年後、書店で見つけたのがこの本だ。同じ著者だが、ハードボイルド小説とは全く違った。興味をそそられたのは「瀬戸内海の小さな島で映画『007』ロケ誘致運動に挑んだ感動の実話」というフレーズである。女子高生の遥香も加わった直島町観光協会のメンバーは、「島がすこしでも発展すれば」との思いから、署名活動をはじめ、「ボンドガール・コンテスト」や「007記念館設立」など手作りのイベントを次々と展開していく。署名数は8万を超え、香川県庁も本格的に動き出し、映画会社からも前向きな返事が届く。
この活動を、地元の山陽新聞が報道しているニュース記事が本の中に紹介されている。山陽放送のテレビ番組でも取り上げられ、映画007のロケ誘致活動が実現するのではないかと島中で盛り上がる。だが、その結末はこの本のタイトルが暗示しているが、最後まで読めば、また違った思いを抱くこともできるのではないか。
著者は「まえがきにかえて」の中で、「本書はまぎれもなくノンフィクション・ノベル。…出来事それ自体を創作した箇所はない」と書いている。007映画のロケ地になったか、ならなかったかは問題ではない。島の人たちがロケ誘致活動に情熱を燃やしたその行動が感動的である。舞台の「直島」は、地中美術館などベネッセのアートの島構想で全国的に有名になっている。この本を読んで、さらに直島へ行ってみたいとの思いを強くした。
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