著者は、最近テレビのコメンテーターとして大活躍している。そのコメントを聞くと、「さすが脳科学者」と納得させられる。しかも、美人である。ひっぱりだこになるのも当然かな、と思う。著書を読んでみたいと思うのも、また、当然の帰結かもしれない。
副題に「人間を支配する快楽物質ドーパミンの正体」とある。はじめに、で「『快楽』と聞くと、反射的に『いけないこと』というイメージを持たれる方が多いのではないでしょうか」と書き出す。そして、「人生の目的のために真摯に努力することと、快楽に我を忘れること――には、同じ脳内物質が関わっているのです」と。実に巧みな序章で、次を読んでみたいという気持ちにさせる。
興味深かったのは、このドーパミンと依存性の関係である。裏表紙に書かれている文章を引用する。――セックス、ギャンブル、アルコール、オンラインゲームなど、人間はなぜこれらのことをやめることができないのか。それは中脳から放出される“脳内麻薬”ドーパミンが「快楽」をつかさどる脳の各部位を巧みに刺激しているからである。コカインや覚せい剤はこの脳内回路「報酬系」を誤作動させて過剰な快楽を与え、依存症を招くものだ。だが、このドーパミンは他人にほめられたり、難易度の高い目標を達成したりするなど「真っ当な喜び」を感じる時にも大量に放出されている――。
この本は難しい人間の脳の仕組みを、専門用語はあるものの分かりやすく解説してくれる。ただ、脳の科学的な解明をしているだけで、依存症に対して処方箋などを示しているわけではない。締めとしては、マズローの欲求段階説をあげて「ヒトのすべての欲求は自己実現の欲求を実現するためにあるように思えます」とする。結論がいささかあっけない感じだ。
脳科学者は脳の全てを知れば、人間の全てを把握した、と思っている傾向があるのではないか。人間が100人いたら100人違う。脳科学の研究がいくら進んでもまだまだ分からないのが人間という生き物ではないか、とも思う。そんなことを考えるのも、この本を読んだからだろう。著書を読んでから、テレビで中野信子さんのコメントを聞くと、また興味深さが増す。
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