文学賞といえば、芥川賞と直木賞がよく知られている。その違いは、芥川賞は「純文学」、直木賞は「大衆文学」だという。芥川賞は無名作家、新進作家が対象で、商業性よりも「芸術性」や「形式」に重きをおく。一方、直木賞はそれなりに活躍している作家が対象で、「娯楽性や「商業性」を重視する。
この著者は、2005年に「土の中の子供」で芥川賞を受賞している。12年に「掏摸(すり)」の英訳が、米紙ウォールストリートジャーナルの年間ベスト10小説に選ばれた。作品は各国で翻訳され、14年に米国で日本人初のデイヴィット・グーディズ賞を受賞。今、世界で注目されている作家のようだ。その著者初の短編集ということで、興味をそそられた。
表題の「世界の果て」以外に、「月の下の子供」、「ゴミ屋敷」、「戦争日和」、「夜のざわめき」が収められている。月の下の子供、ゴミ屋敷、の二つを読んだところでいったん投げ出した。どんな小説かと聞かれたら、「言いようのないような狂気と滅入るような暗さ」と表現するしかない。読んでいると憂鬱になる小説とでも言えようか。しばらくして、もう一度手にして最後まで読んだ。
部屋に戻ると、見知らぬ犬が死んでいた――。「僕」は大きな犬の死体を自転車のカゴに詰め込み、犬を捨てる場所を求めて夜のさまよい歩く。「世界の果て」のあらすじだ。そうみても「まともでない」人たちの、訳のわからない行動がつづられる。何でこんな作品が評価されているのか理解できない。そう思いながら、著者のあとがき解説を読んで少し考えが変わった。
「世の中に明るく朗らかな小説だけしかなくなったら、それは絶望に似ているのではないかと個人的には思っている。そんな小説は世の中に溢れているから、別に僕が書く必要はないのではとも。…色んなものがないとその文化は痩せていくとか、思っていたりする」。
そうだ、「面白い小説が好き」という自分の価値観だけで推し量るのはやめよう。暗くて、狂っているのが好きな人もいるのだ。そんな思いを認識させてくれた一冊である。
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