以前にもこの欄で書いたことがある。多くの文学賞の中で外れがないのは「本屋大賞」だと。本好きな全国書店員が投票して選ぶのだから、さもありなんと思う。その本屋大賞発表前に、たまたま図書館で借りて恩田陸著「夜のピクニック」を読んでいた。ほかの作品もと思っていた矢先だった。
この本が、直木賞と本屋大賞の史上初のダブル受賞だという。読むのは必然だろう。「ピアノコンクールを舞台に、人間の才能と運命、そして音楽を描き切った青春群像小説」と帯にあった。そういえば、吉川英治文学新人賞を受賞した「夜のピクニック」も高校生が24時間かけて80`を歩く行事を取り上げた青春小説だった。
舞台は、静岡県浜松市で3年に1度開かれる浜松国際ピアノコンクール。養蜂家の父と各地を転々とする風間塵(16)、かつて天才少女と言われたが母親の突然の死でしばらくピアノが弾けなかった栄伝亜夜(20)、音大出身だが現在は楽器店勤務の高島明石(28)、名門ジュリアード音楽院のマサル・C・レヴィ・アナトール(19)の出場者4人を中心に、数多くの天才が繰り広げる競争と自らの闘いが描かれていく。4人が感化し合い、成長していく青春ストーリーでもある。
それにしても、ピアノの音色はなかなか言葉では表現しにくいものだ。コンクールは1次、2次、3次、本選と進む。著者が「1度使った表現は使えないのが…」と苦闘したのは当然だろう。読みながら素晴らしい音楽が頭の中に溢れ、どっぷりと音楽の世界に浸ることができた。音楽を聞いた時に浮かぶ情景や感情を、「よくここまで表現したな」と感心する。
分厚い本だが、寝る間を惜しんで読みふけった。読み終えて「蜜蜂と遠雷」というタイトルについて考えた。蜜蜂王子の愛称で親しまれる風間塵と、その師匠で天国にいるホフマンのことを指している、という見方が常識的。だが、深読みすれば「野山を飛び交う蜜蜂の軽やかな羽音、遠くで響く遠雷―つまり、この世界は音楽で満ち溢れている」ということかもしれない。
コンクールの優勝者は誰? これはページ最後に書かれているので読んでのお楽しみ。ただ、真の優勝者は誰でもいい、と思わせる作品になっている。
|