「台北を舞台にした作品」というのが目に留まった。娘が台湾に住んでいるので、台湾というと脳が反応してしまう。台北の夜の屋台で食事をしたこともある。この小説を読んでいると、街のイメージがわいてきた。
著者の両親は中国人で、台湾に生まれだ。5歳まで台北で過ごし、日本に渡り広島に住んでいたこともある。9歳から福岡市に在住している。台北の街が生き生きと描かれているのは、そういう境遇から考えると必然だったのかもしれない。
主人公は17歳の葉秋生。中国の内戦で敗れ、台湾に渡った祖父は、1975年に台北で殺された。誰に、どんな理由で殺されたのか? 無軌道な青春をおくっていた秋生は、台湾から日本、そして中国大陸へと自らのルーツをたどる。1970年代から80年代にかけての混沌とした時代。日中戦争や蒋介石の国民党と毛沢東の共産党との内戦、台湾ヤクザとのトラブル、初恋や失恋…
歴史の激流に流される一家の軌跡が描かれる、青春ミステリーともいえる。
ただ、登場人物が中国語の名前とあって、物語に入り込むまでに時間がかかった。栞に20人の「主な登場人物」が書かれているのも、読者の気持ちを汲んだものだろう。読み始めは、その栞を何度も見返しながら、登場人物を確認する作業に手間取った。これに慣れてくると、登場人物が生き生きと動き出し、ぐいぐいと引き込まれていったのである。
この作品からは、様々な匂いや声、音楽などが漂ってくる。台北の街並みに響く車の喧騒、麻雀牌のジャラジャラ、笑い声と泣き声。さらに血の匂いた体臭、食べ物や酒の香り、ドブやホコリといったものが物語からあふれ出る。
この著者の作品は初めてだった。2015年の直木賞受賞作というのも、この本を手に取って初めて知った。テンポの速いハードボイル作品が、得意ではないかと思う。ほかの作品を読むのが楽しみになった。
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