時々書店を訪れる。そして、膨大な量のいろんな本が並んでいるな、といつも思う。名前を知らない作家のなんと多いことか。残り少ない私の人生で、どれだけの本を読むことができるのだろうか、と考えながら書棚を眺める。楽しいひと時だ。
「伊岡瞬」という作家の名前も知らなかった。ただ、平積みにされ、話題になっている作品ということは分かる。面白いか、そうでないかは、読んでみてからのお楽しみ。この作品もそんな感じで手にしたものである。
主人公は、東京・世田谷の平凡な家庭に育つ小学5年生の奧山圭輔。近くに住む母の遠縁に当たる浅沼道子と息子の達也が奧山家に訪れるようになって、悲劇が始まる。突然の火事で両親と家を失った圭輔は、後見人となった浅沼家で暮らすことになる。家も財産も浅沼親子に乗っ取られ、その生活は奴隷状態。圭輔は過酷な思春期を送る。
圭輔と同学年の達也は、下品で冷酷で人の心や命までも操るのが上手なモンスターだ。圭輔の親友・諸田寿人が達也のことを「世の中には矯正できない人間がいる。世の中に存在してはいけない化け物」と評する。世の中にも、生まれつきの悪人が確かにいる。それにしても、ここまで酷い人間はそういないだろう。
2部構成になっていて、1部は、圭輔の過酷な思春期時代。達也のどうしょうもない悪事に気分が悪くなる。読むのがつらくなるようなストーリーなのに、ぐいぐいと引き込まれていく。2部は、長じて弁護士になった圭輔に、逮捕された達也から弁護の依頼が舞い込む。それは、達也の巧妙に仕組まれた罠だった。追いつめられた圭輔と達也の壮絶な戦い。法廷劇は、衝撃の結末を迎えるサスペンスミステリーである。
また1人、別の作品も読んでみたいと思う作家に出会った。
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