12年前になる。作家・藤原伊織さんが亡くなった時、代表作の「テロリストのパラソル」を読んで心が揺さぶられ。それから、藤原作品に「ハマった」。そして、図書館や書店で探し、全作品を読んだ。
それ以来、久しぶりにハマったのが「中山七里」である。この1ヵ月間に「月光のスティグマ」を手始めに、「おやすみラフマニノフ」「いつまでもショパン」「追想の夜想曲」「スタート」と、たて続けに5冊を読んだ。この「総理にされた男」が6冊目である。さらに今、図書館で借りた「どこかでベートーベン」「作家刑事毒島」が手元にある。出世作の「さよならドビュッシー」も是非読みたいと思っている。
売れない舞台俳優・加納慎策が主人公。内閣総理大臣・真垣統一郎に瓜二つの容姿だけでなく、そっくりな物まね芸でファンの中で密かに話題になっている、という設定である。その慎策がある日、官房長官・樽見正純に呼ばれ、病気で再起不能になった総理の「替え玉」を引き受ける。
国会や官邸を取材した経験があるので、政治の世界はきれいごとばかりでは済まないことをよく知っている。「国民のため」というのは建前で、国民の願いを置き去りにした党利党略、私利私欲の不条理な現実が繰り広げられる。政界の内側が、なかなかリアルに描かれていると思う。そのあたりは、この著者の筆力であろう。
ただ、時代劇の「影武者」ならいざしらず、総理大臣となるとさすがにすぐ「バレる」のではないか。少々無理な設定だが、純粋で実直な慎策の演説は、国民の声を代弁していると思う。替え玉の素人だからこその理想を持って政治家に挑み始める姿は、思わず拍手したくなる。そして、読後感の爽快さは保証したい。
著者の作品は、ラフマニノフやドビュッシー、ショパン、ベートーベンなど音楽に関するものが多い。調べてみると、妻がエレクトーンの教師ということで納得した。推理小説だけでなく、いろんなジャンルでも読ませる作家である。全作品の読破に挑戦したい。
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