ハードカバーの554ページ。読み始めたころは、いささか手に余りそうだと思った。はっきり言って、何度も投げ出しそうになった。その気持ちを繋ぎ止めてくれたのは、不登校になった子どもたちの心の葛藤が見事に描かれているリアルさからだった。
「こころ」という名前の中学生女子の視点で、人間関係が語られる。――学校の居場所をなくし、閉じこもっている「こころ」の目の前で突然、部屋の鏡が光り出す。輝く鏡を潜り抜けた先に、城のような不思議な建物。そこは、こころと同じ境遇の7人が集っていた。オオカミ面の少女は「願いの部屋の鍵を探してその部屋に入れば、その人の願いが一つ叶う」と言う。7人は城を遊び場所にして、協力といさかいを繰り返しながら、それぞれの境遇と本音を知っていく――。
物語の中の、いじめや不登校については、とりわけ新しいことはない。学校には「通じ合わない人」もいる。こころと真田美織、こころと担任の伊田先生との関係は、まさに「通じ合わない人」である。友達同士のいざこざ、学校の抱えている全体主義や同調圧力の悩んでいる子どもたちは、想像以上に多いだろう。「たかが、学校」、居場所はそこだけではない、と思うことができたらいいのだが、なかなかそうはいかないのが現実だ。
ファンタジーのラストは、謎が次から次へと明かされていき、驚きと感動を呼ぶ。最後に二重トリックが隠されているのも、辻村作品らしい。ネタバレを少しすると、こころを励ましてくれるフリースクール「心の教室」の喜多嶋晶子先生が、大きな役回りをしていたことである。これは読んでのお楽しみ。
この作品は、2018年本屋大賞を受賞した。著者が受章あいさつで「今はうつむいている誰かが顔を上げ、次の誰かを救えたら」と語っている。その気持ちがこの本に込められているようだ。著者の小説は読んだ後、温かい気持ちにさせてくれるのがいい。「学校に行くのがイヤだという気持ちにさせる側」の子たちに読んでもらいたい作品でもある。
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