アガサ・クリスティーの「エルキュール・ポアロ」やコナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」といえば、ミステリーファン以外にも知られた名探偵だ。昔、洋物のミステリー小説を何冊か読んだ記憶はあるが、最近はとんとご無沙汰している。
書店で目に付いたこの本も、たまたま手にしただけである。最初は登場人物蘭を何度も見返しながら、すんなりと進まなかった。そして、翻訳もの独得の言い回しに慣れてくると、ぐいぐいと引き込まれていった。イギリスの古典ミステリーみたいだが、最近作であることが不思議に思える作品である。
舞台は1955年7月。男爵サー・マグナム・パイ家で働く家政婦、メアリ・ブラキストンの葬儀から始まる。鍵のかかった屋敷の階段の下で倒れていた彼女は、掃除機のコードに足を引っかけたのか、あるいは殺されたのか。そして、今度はマグナスが殺される。メアリは「噂好きのお節介おばさん」、マグナスは「傲慢な金持ち」でこの村では誰彼となく恨みをかっている人物だ。登場人物は全員が怪しい。そこに余命わずかな名探偵アティカス・ピュントが登場して、推理が進められる。
上巻は作中の小説家アラン・コンウェイによる「カササギ殺人事件」という謎解きミステリーの形式をとった「作中作」だ。最後の一文は、こんなピュントの言葉で終わる。「あの男は、わたしが知りたかったことをすべて教えてくれたよ。あの男こそは、この事件のきっかけを作った人物なのだからね」「本当ですか? いったい、何をしたんです?」「自分の妻を殺したのだ」。
上巻のラストが「ここで終わるの?」という思いだったので、すぐさま下巻を開かずにはいられなかった。下巻は、アティカス・ピュントシリーズの担当編集者である語り手のわたし(スーザン・ライランド)が、探偵さながらに謎解きをする物語である。下巻を読み終えたら、また上巻の始めに戻りたくなる。一作で二度謎解きを味わうことができる作りになっている。
久しぶりに洋物ミステリーを読んで、新鮮な感覚になった。21世紀に書かれ翻訳された、謎解きミステリーの傑作だろう。
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