今までにない家族小説を読んだ、という何か不思議な感覚になった。主人公は17歳の女子高校生、森宮優子。父親が3人、母親が2人、17年間で4回も名字が変わる。それも、親戚を転々とするのではなくて、血のつながらない人が親となって暮らすという設定だ。
どうしてそうなったかは、優子の高校生活の合間に、過去のシーンを思い出す形で少しずつ事情が分かる。そのあたりの手法がなかなか上手い。最初、実の母親とは死別。実の父親がブラジル転勤になった時、小学5年生だった優子が父の再婚相手・梨花さんと日本で暮らすことを自分で選ぶ。
親になった人たちは、どの人も一風変わっていて、優子の親になることを喜んで受け入れる。そして、優子に愛情を注ぐ。本当の家族ではないからこそ、甘えすぎず、親子の距離を保つ、ほのぼのとした間合いが絶妙といえば絶妙である。いささか、いい人ばかり出てきて現実ではありえない、と思う。一方で、何かほっとする感じで、こんなだったらいいなあ、という願望のような気持ちもある。
著者は特異な事情を抱える家族関係をいくつか描き、「家族小説の名手」と言われている。さりげない日常を、さりげなく描いて味わい深い世界へと導く巧みさが真骨頂だ。食事のシーンが多いことでも知られている。この作品でも食事の関係がそれなりに重要な要素になっている。
優子の一人称で書かれているが、ラストの5ページは3人目の父親・森宮さん視点に変わる。これがまた良い。実の父親、2人目の父親、泉ヶ原さん、梨花さんも出席した優子の結婚式シーンで終わるが、読後感がこんなに良い作品を久しぶりだ。サスペンスもいいが、こんなほのぼのとした作品も好きである。
「余りにきれいごとすぎる」と評価しない人もいるだろうが、2019年本屋大賞を受賞したことを私は評価したい。
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