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株式会社 廣文館
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コラム・ブックレビュー
広島在住のジャーナリストによる “書評”コーナー!
「書物の魅力」を 月1回のペースでお届けします。

四月になれば彼女は
川村元気著(文春文庫 680円+税)

書店に並んだ本を眺める。まだ読んだことのない作家の名前とタイトルを見ながら、どんな作品だろうかと、思いをめぐらす…。「未知との遭遇」である。それは、至福の時といえるかもしれない。今回は一見、淡くて儚い感じの表紙デザインに目がいった。タイトルも「四月になれば彼女は」と何だかよく分からない。だが、存在感があるのだ。

表紙のデザインは、南米ボリビアの「ウユニ塩湖」グラフィックだった。富士山の山頂と同じくらいの標高3700mのところにあり、空を湖面に映し出す「天空の鏡」と呼ばれる神秘的な絶景だ。テレビで見たことはあるが、その不思議な光景は、一生に一度でいいから見たいと思わせる。

そして、タイトルは「サイモン&ガーファンクル」の歌のタイトルだった。CDを引っ張り出して聞いてみた。「四月になれば、彼女はやってくる」から始まり、五月、六月、七月、八月と進み、九月の「手にした愛はやがて愛でなくなってしまう。気付くと恋は恋と呼べないものへと姿を変える。永遠に続くわけではないと知りながら、それでも人は人を愛さずにはいられません。気持ちを抑えることができません」で終わる。読み始めると、この歌と同じ展開で物語が進んでいくではないか。

4月、精神科医の藤代のもとに、初めての恋人・ハルからの手紙が届いた。だが、藤代は1年後に結婚を決めていた。愛しているのかわからない恋人・弥生と。失った恋に翻弄される12ヵ月が始まる―。表紙裏に書かれた文章だ。「いまわたしは、ボリビアのウユニにいます…」。かつての恋人から届いた手紙は、異国の美しい地を描写していた。それからの手紙では、過ぎ去った時間、若いころの淡く苦い恋など、さまざまな思いが綴られる。

この作品には、著者の恋愛観、死生観、人生哲学がにじみ出ているように思う。例えば、「生きているという実感は死に近づくことによってハッキリとしてくる。この絶対的な矛盾が日常の中でカタチになったのが恋の正体だとボクは思う。人間は恋愛感情のなかで束の間、いま生きていると感じることができる」という言葉に。そして、悲しいことに「大切なものは失ってからしか気がつけない」ということを改めて心に刻み込まれた。

著者は「君の名は。」や「悪人」」「告白」などの話題作の映画プロデューサーでもある。また一人、全作品を読んでみたい作家に出会った。

【ジャーナリスト 枡田勲 2019/12/13】


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